第十章 危機

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 諦めかけたところに、背後から鈍い音が響いてきた。  ドアが蹴られた音だった。それから人がもみあうような声。 「やめて壊さないでっ」 「ここにいるんだろうが」  再度、ドアが大きく蹴られる。  蝶番が外れて、木枠が弾けて飛んでいった。 「おいなにやってんだよおまえらっ」  聞いたことのある声が、頭上から降ってくる。  首をひねって無理な体勢から顔をあげれば、戸口に立つ影に、男たちも振り返った。  部屋の入り口には、バーテンダー姿の上城が立っていた。 「……か、上城、さ……」  押さえつけられ、服を脱がされている陽向を見て表情を凍らせる。  一歩踏みだし、拳を胸のあたりで作った。 「そいつを離せ」  ひとりずつ殴り倒しそうな勢いに、男のひとりが大ぶりのナイフを取りだし、陽向の顔にかざした。 「おおっと、手ぇだすなよ」  威嚇するように、陽向の頬に刃の先端を当てて見せる。鋼が鈍く光るのを見て、上城が怒りに顔を歪めた。  畠山が陽向から離れ、上城のまえに立ちふさがる。 「こいつの顔に傷つけられたくなかったら、大人しくしてろ」  薄ら笑いを浮かべ、顎を突きだし上城を見あげた。上城は男を睨みつけたが、押さえ込まれている陽向を確認すると、握りしめた拳を震わせながら脇にだらりと下ろした。  畠山が勝ち誇った顔つきになる。けれど、上城の反抗的な眼差しに、突然キレたように叫んだ。 「なんだよっ。てめえはいっつもいっつも、生意気なツラしやがって」  言うなり、上城の顔を拳骨で殴りつけた。  勢いあまって、上城は戸口まで飛ばされた。大きな音を立てて壁にぶつかり、そのまま頽れてしまう。 「か、上城さんっ」  陽向はナイフがあることも忘れて、肩を揺すって起きあがろうとした。三人がかりでねじ伏されていたので、びくともしなかったが、上城を助けたい一心で手足をバタつかせた。 「静かにしてろ」  髪を掴まれ、頬に張り手をされる。 「……いっ」  動きを封じられて、下着が引っ張られた。 「礎、おまえはそこで見物してな」  腰のあたりから素肌がさらされていくのがわかって怖気立つ。  陽向の足にひとりが馬のりになり、あとのふたりが自分のベルトに手をかけた。  ――嫌だ。  上城のまえで、こんな奴らに犯されたくない。  
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