第四章 ライバル宣言

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 上城が、ジムでスパーリングをしていた姿が脳裏に浮かぶ。それから、ザイオンでバーテンダー姿で接客している立ち姿が。シェーカーを振る手つきに、ビールを注ぐ指先。どれもこれも、ひとつひとつが心騒がせる。  男など、好きになったこともないのに。  けれど恋愛感情なのかと問われたら、それには自分の中の雄の部分が疑問を呈してきた。  自分は生まれてこの方二十年、男に恋したことはない。女の子にしか。  この気持ちが恋情だというのなら、自分は桐島と同じように男に愛して欲しいと思っていることになる。優しく抱きしめて守って欲しいと思う側になる。いやそれはありえない。  自分は女の子なんかじゃない。身体も小さく頼りなげで、女性との恋愛経験も希薄だけれど、自分は確かに男であって、女性的なものなど身体にも心にもひとかけらもない。恋愛するなら攻めて守ってあげる側だ。  だから、これは恋愛感情じゃない。  ――多分、きっと、これは単なる憧れなのだ。男だって格好いい同性には、ああなりたいと憧れるものなのだから。自分は上城のような男になりたいのだ。  上城に対する感情は、それだけだろう。小学生のサッカー男子が、プロのサッカー選手に憧れるのと同じ種類のものだ。自分もそうなりたいと思う、その羨望と憧憬の結晶が、こういう形を取ってるんだ。  そうだ、これは憧れだ。そういうことなのだ。  ふたりが仲よくなるのに焦燥を感じてしまうのも、友達に仲間外れにされているような疎外感を味わわされているためなんだ。  陽向は自分自身をそう納得させ、この感情の正体を結論づけて安心しようとした。
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