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あんたら使い方荒いから、と文句を言う。男たちは馬鹿にするように笑い返した。
周囲の客を見渡すと、彼らは陽向に同情と好奇の目を向けている。誰も助けるために動こうとはせず、おかしなことに、複数人に囲まれた陽向に、羨ましそうな眼差しを向けてくる者さえいた。
それで陽向は、ここが普通のバーではないことに気がついた。
「……勘弁してください」
腕を引いて逃げようとしたら、畠山に凄まれる。
「なに言ってんの。おまえあいつの友達なんだろ。だったらちょっと付きあえよ」
陽向を引き摺るようにして裏口をあけると、暗くて短い廊下へと押し込んだ。
奥には壊れかけたドアがふたつ並んでいる。そのうちのひとつをあけながら、畠山が陽向の腰に手を回してきた。
「このまえは悪かったな。大事なところを蹴りあげたりして。あれからどうなった? アレは潰れてなかったかよ?」
「……だ、大丈夫です」
「そうかい。そりゃよかった。心配してたんだぜ」
畠山が、手をのばして股間をぎゅっと握ってきた。
「……っ」
驚いて跳ねあがると、後ろに立っていた男に肩を押さえつけられた。
「可愛い声だしてんじゃねえよ。いいもん持ってるじゃねえか。で、あんたは上城とはもうヤっちまったのか?」
下品な言い方で、上城との関係を尋ねてくる。鼻息がかかるほど間近でいやらしい笑みを浮かべる男から、陽向は目をそらした。
「あんたが上城のオンナなら教えといてやるよ。あいつは昔、俺の大切なオンナを無理矢理にかっさらってったことがあってだな」
「……」
「あの店の二階に隠して、ふたりでヤりまくってたんだよ。そのあと、上城はあいつに飽きたからって遠い場所に捨てに行ったんだ。俺はそれを聞いてだな。あいつのことぜってー許さないって決めたんだよ」
陽向は黙って聞きながら、けれど相手の話は信じていなかった。
こんな奴の言うことは信用してはいけない。多田のときもそうだった。噂は噂でしかない。真実から歪められて、都合のいいように変換されている。
だから信頼できる人から聞いた話しか、アキラや、上城から教えてもらったことしか信じちゃいけない。
けれど、そう思っていても身体は芯から震え始めた。この男は、どうしてこんな話を自分にしてくるのか。
「あいつはそういう男だよ。俺のこと、馬鹿にしきってるんだ」
「……そんなことないと思います」
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