第十章 危機

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 上城のことをひどく言われて、我慢ができずに陽向は囁いていた。  畠山が自分のことをオンナと呼ぶのにも抵抗を感じた。  自分は決して、オンナなんかじゃない。ちゃんと男だ。陽向の言葉に、畠山が眉をよせる。 「上城さんは、そんなこと、する人じゃありません」  重ねて言えば、畠山の顔に怒りのせいなのか赤みがさしてきた。陽向は奥歯が鳴りそうになるのを懸命にこらえた。 「上城さんは、ナツキって人を、助けてあげたんだって聞きました」  この男の言うことに、黙って頷いて、そうして頃あいを見て穏便に逃げる算段をすべきだったかもしれない。  そうですね、と同調して機嫌を取って、無事に帰してもらえる方法を選ぶべきだったのかもしれない。  今までの小心な自分だったらそうしていただろう。ハイハイと愛想笑いのひとつでもして、馴れあう道を選んでいた。  けれど、上城の顔を思い浮かべると、たとえこの男に殴られても上城を裏切るような態度は取りたくなくなった。  勇気があるところが好きだと言ってくれた彼に、軟弱な奴だと思われるのは嫌だった。 「へえ」  畠山の双眸に、凶暴な陰りが走った。陽向の言うことに、ゆっくりと顎を引く。 「そう聞いてんのかよ。だったら話は早ええな。俺ら、ナツキがいなくなってからずいぶん、干あがってるんだ」  畠山が陽向の腕を引いて、薄暗い部屋の奥へと連れ込もうとする。 「あいつを庇うってことはそれ相応の覚悟はできてるってことなんだろうな」  陽向の背中を、他の男が押してきた。 「俺ら、あいつには世話になってんだよ。ここで商売できないのもあいつのせいで、マジむかついてんだよ」 「このまえ、邪魔された礼も、まだできてないんだよね」  周りにいた男らも口々に不満を言いだす。  陽向のやせ我慢も限界に達した。この状況をどうすればいいのかわからない。ただ殴られるだけで許してもらえるのだろうか。 「上城への借りを、あんたで返させてもらうわ」  男のひとりが部屋の電気をつけた。狭い部屋の中には薄汚れた合皮のソファと簡易ベッドがおいてある。休憩室かなにかかと思ったところに、後ろから首に腕を回された。 「……うっ」  羽織っていた薄手のジャケットをいきなり引っ張られて、腕の半分まで下ろされる。それで両手の自由がきかなくなってしまった。 「な、なに」
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