小説家Dの誤算

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 ~2nd time~ 「どうしてよ。どうしてまたこんなことをしたの!」  妻は涙ながらに僕の胸を叩く。救命士がそれを羽交い絞めにして引き剥がし、僕を乗せたストレッチャーを救急車に押し込んだ。  あれから5年が過ぎた。作家人生は順調に進むものと思っていた。ところがそれは長続きしなかった。所詮いっときのブームだったのだ。せっかく新刊を出しても、すでに僕に対する大衆の興味は薄れていた。  こうなるまでに本は売れたし、一部は映画化もされた。結果それなりのお金は手に入った。もう書かなくても充分生活していけるだけの額だ。しかし、もはや金銭の問題ではなかった。書いたものが売れないのは、作家としての矜持が許さないのだ。  手にとってくれさえしたら面白さは分かってもらえる。手にとってくれさえしたら。そこで禁断の手を思いついた。あのとき僕の本が売れたきっかけ。そうだ。もう一度自殺すればいいのだ。そうすれば、また僕の本を手にとってもらえるじゃないか。  しかし妻の言葉も頭にこびりついていた。死んだら終わり。それなら死なないように自殺しよう。命は落とさないよう、細心の注意を払えばいいだけのこと。  思惑は見事に当たった。そんなこととは知らない妻は僕をなじる。 「どうしてそんなに命を粗末にするのよ」  そんなこと言ったって見てみなよ。命をかけただけの成果は出たよ。通販サイトで僕の本はまた1位になったじゃないか。
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