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「お前は今まで何人、この町の人を襲い、喰ったんだ?」
自分でも違和感を覚えるほど、低い声で蜘蛛に問う。
「この町に住みついて、どのくらい人を殺した?」
いくつもの疑問をぶつけるが、蜘蛛の反応はというと、
「にクイ……ヒと…ガ、二くイ……。…レヲ、ウラ…ッた、ひト……にくい。
なゼ…、……に、つレ……かレタ。…いツに、ダれ…二。…ガミを………て、ここ…
きた。……こコ、スみ……い。てキ、……ナい。ヨわ…ヒと、オオ…。…ッとクう。
……こコデ、クウ」
と滑舌のせいか、ところどころ聞こえにくい。いくつもの眼球が回っては、その間から血の涙を流している。ごぼ、ごぼ、とうめき声の中にも咳が混じっていた。
「……あいつ、人が憎いって」
ぽつりと呟く、桶子の言葉には悲哀が含まれている。
「そのくらい、分かるよ」
『人が憎い』。ただ、それだけは聞き取れていたから僕は桶子に応じた。
「……」
その時の桶子の表情も見ず、彼女の気持ちも知らずに。
「桶子」
最早、話にならない。僕は興奮冷めやらぬ状態のまま、少女に呼びかけた。
「桶子は、今から後ろの二人を助けに行ってくれ」
「……え?」
僕は桶子にしか聞こえないような声で、じりじりと大樹の方に後退しながら続ける。
「二人まとめて逃げてくれとは言わない。ただ、二人を吊るしている紐だけは切っておいて欲しいんだ。」
あとついでに、どちらか片方だけでも起こしておいてくれるとありがたい。
そう言いながら、僕は背負っていた鞄の中――筆箱からカッターナイフを片手で取り出すと桶子に手渡した。
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