08.虚空の瞳

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「刃の出し方は分かるか? 怪我しないようにな」 「待って、ミノ」  桶子は桶の中で、くるりと体をこちらに向ける。その瞳は不安げに揺れていた。桶子には難しい作業かもしれない。大樹の枝まで連れて行けば、あとは帯を使って昇ってくれるだろうが、大人の体格の女の子二人を助けるというのは、たとえ僕が役割を代わったとしても難しいだろう。こちらも子供に刃物を持たせること以上に、その役割を任せることに勇気が要った。 「大丈夫だ」  だから、僕はむしろ彼女を励ますことにする。彼女が心配しているのは、自分がこれからしなければならないことではなくて、僕がこれからなにをしようとしているのかを察知しているようだからだ。 「僕も僕でやるべきことをやる。僕はあいつの気を引きながら逃げる、そして桶子は二人を救助する。しばらくしたら僕はそっちにもどるから、そしたら皆で逃げよう」  二人が気絶しているのでは、桶子の木にどうやって上がらせるか、体を支えておくかは考え物だが、この際、それを考慮する時間もない。  全部、一か八かである。 「そうだ。この夜を乗り越えられるか、もう僕らの運に頼るしかない」  僕は彼女に、あと自分の心にもそう言い聞かせる。戦う力などない僕と、戦力は未知数の桶子。この状況下で全てが一か八かでも、より確実に生き残れる方法を選びたいのだ。  両者の役割について説明すると、彼女はすぐに泣きそうな顔をした。感情の乏しい彼女の珍しい一面だ。しかしそれを僕は目で訴えてやる。これから死にに行くんじゃなく、生き残るための作戦なんだと、訴えた。  そうして彼女はうつむいた。時間にして数秒か、体感的にはしばしの逡巡があって、桶子は、  桶子は顔を上げると、にやりと笑んで見せた。
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