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ぞっと、背筋が寒くなる。蜘蛛と正面を向けている現状、後ろが気になってくるのは、胴体を持ってかれてしまいそうな、抑えきれない恐怖がそうさせているからだ。
蜘蛛はどこまでも僕を追いかけてくる。よろよろとしていても、奴の中の執念が消えない限り、その脚は確実に僕に近づくのだ。その姿は、まるでゾンビみたいだ。別の言い方にすれば、ねじが止まりかけているブリキのおもちゃか。無心。そう、蜘蛛からは最早、心というか、感情すらないようだった。いや、感情なら、『怒り』だけ存在しているのか。
奴にはもう、走る力もあまり残っていないのかもしれない。
僕は蜘蛛と一定の間隔を保ったまま、あてどなく誘導を続ける。とっとと、こいつを撒いて桶子の元へ戻らなければならない。それには、僕が引き返す間、蜘蛛が戻って来れないくらいの状況を作らなければならない。周辺の道路は直線が多いため、自分自身が隠れにくい上、蜘蛛を迷わせることも難しい。だが、蜘蛛の動きがかなり鈍くなってきていることから、距離を空けて、全力疾走で空地まで戻れば逃げ切れるのではないかと思う。
当然、もう一匹いる可能性も捨てきれない。だが、これ以外の方法は考えられなかった。
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