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昂は、すぐに目を覚ましたが、頭を角にぶつけていた。血は止まり、応急処置はしたが、心配であった。
「病院に行こう」
「嫌です。病院に行けば、精密検査とかになるでしょう。その間、遊部さんは居てくれるのですか?いないでしょう?」
検査を待ってもいいが、昴が入院となれば、付き添いまではできない。
「遊部さん、すぐに、興味の趣くままに消えるでしょう。その度に、俺が倒れる」
どうも、今回も俺が離れたせいだと思っているらしい。
「昂君、今回は、殴られて気絶していたよ。俺は、傍にずっといたし」
昴は、返事をせずに管理人室に入ると、氷で頭を冷やしていた。
「本当に大丈夫?」
昴は、居間に胡坐をかくと、ため息をついた。
「ここは、遊部さんには無理です。成己の言う通りです」
回収屋に襲われるのは、想定外であった。
「俺は、儀場さんの夢にだけ共鳴するのではありません。危険な人物の夢を共有します」
儀場は危険であるのか。
「俺は、黒煙の夢を共有しました」
夢とは架空の世界と思いがちだが、そうではなく、記憶の格納処理なのだそうだ。脳が記憶をしている時に、やることのない他の脳の部分は、動いていないのに電気信号を与えられ、勝手に世界を見せている。
「黒煙は、ここで、幾人も死においやっていました。でも、証拠は何もない」
失踪、行方不明、家出、殺人にはなっていないが、人間は消えていた。死体があるから殺人で、死体が無ければ失踪なのだ。
「百舌鳥さんに説明しましょう」
ここでの仕事の継続は、危険であるらしい。
生葬社に戻ると、ラッシーまで来てしまっていた。ラッシーに帰れと言っても、帰ろうとしない。
「誘拐になるでしょ、こっちが」
「ワンワンワン」
『常に家出しているので、飼い主は驚かない』
そういう問題ではない。怒ろうとすると、百舌鳥が店長室から出てきた。
「そうか、黒煙か。で、昴君は黒煙の記憶を記録したね。詳しく、報告書を作成してね」
真剣な百舌鳥は、やはり、やり手のサラリーマンの面影があった。
「丼池君が、黒煙を追い払ったのね。そうだね、黒煙は逆恨みするタイプであるから、今後は、丼池君もアパートに近寄らないほうがいいね」
俺のせいで、丼池がマークされてしまったであろうか。俺が、頭を下げて反省していると、百舌鳥までもがハンカチで俺の頬を拭いた。
「遊部君、泣かないの」
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