第1章

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 百舌鳥が優しいわけがない。昴は、目を逸らすと窓の外を見ていた。 「丼池君、何があったの?」  丼池は、運転に集中するフリをしていた。 「そっか、信頼はゼロだよね」  パッと丼池が、俺の方を向いた。 「綾瀬さんです。回収した筈なのに、まだ収まっていないのです」  仏前に供えられたメダルが飛び、俺の住所が握り潰されていたという。誰かのイタズラなのかと言っても、家族にはそんなイタズラをする者はいない。  それが、毎日のように続いていると、百舌鳥に相談の電話が掛かってきたらしい。回収後も現象が続くなど、今まではなく、百舌鳥が調査に行けと俺に伝言していた。 「俺は、安田君の件を引き受けているから、百舌鳥さんに行って貰え」  田舎には帰りたくない。  そこに又電話が掛かってくると、弟の実徳(みのり)であった。 「実徳?」  内容はだいたい分かる。実徳の所に、綾瀬の両親が来たのだろう。 「兄さん、引っ越ししていたのですね!綾瀬さんでなくても怒ります!現在の住所を教えてください」  やや、想像と内容が違っていた。実徳は、綾瀬が怒る理由が分かるという。実徳も、黙って引っ越しされていれば、腹が立つというのだ。 「ええと、昴、現在の住所ってどこ?」 「俺の家の住所ですか?電話貸してください、伝えます」  そこで、又、実徳が怒っていた。 「兄さん!誰と住んでいるのですか?昴君?って男ですか?」  男なら問題ないだろう。 「昴は男だよ」 「兄さん!」  どうして、こんなに怒るのだろうか。  丼池が吹き出すと、車を路肩に止めて、俺の携帯電話を手に取った。 「俺は生葬社の丼池 成己です。事情は長くなりますが、お兄さんの特異体質に気付いていますね?」  丼池は丁寧に、俺が居ないと、弟の昴が起きていられない事、そのために、自分の両親が俺に黙って荷物を運び引っ越しさせ、同居させてしまった事を説明していた。 「昴と二人で暮らしているわけではありません。家族として、皆で暮らしています。君の兄さんをとても大切にしていますから、安心してください」  丼池が俺に携帯電話を戻してきた。携帯電話に耳を当てると、実徳の長い溜息が聞こえていた。 「……兄さん。俺は、兄さんが特別な存在だと、物心ついてからずっと知っていました。だから、俺が守るって、ずっと思っていました。今もです」  又、実徳の溜息が聞こえる。
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