89人が本棚に入れています
本棚に追加
百舌鳥が優しいわけがない。昴は、目を逸らすと窓の外を見ていた。
「丼池君、何があったの?」
丼池は、運転に集中するフリをしていた。
「そっか、信頼はゼロだよね」
パッと丼池が、俺の方を向いた。
「綾瀬さんです。回収した筈なのに、まだ収まっていないのです」
仏前に供えられたメダルが飛び、俺の住所が握り潰されていたという。誰かのイタズラなのかと言っても、家族にはそんなイタズラをする者はいない。
それが、毎日のように続いていると、百舌鳥に相談の電話が掛かってきたらしい。回収後も現象が続くなど、今まではなく、百舌鳥が調査に行けと俺に伝言していた。
「俺は、安田君の件を引き受けているから、百舌鳥さんに行って貰え」
田舎には帰りたくない。
そこに又電話が掛かってくると、弟の実徳(みのり)であった。
「実徳?」
内容はだいたい分かる。実徳の所に、綾瀬の両親が来たのだろう。
「兄さん、引っ越ししていたのですね!綾瀬さんでなくても怒ります!現在の住所を教えてください」
やや、想像と内容が違っていた。実徳は、綾瀬が怒る理由が分かるという。実徳も、黙って引っ越しされていれば、腹が立つというのだ。
「ええと、昴、現在の住所ってどこ?」
「俺の家の住所ですか?電話貸してください、伝えます」
そこで、又、実徳が怒っていた。
「兄さん!誰と住んでいるのですか?昴君?って男ですか?」
男なら問題ないだろう。
「昴は男だよ」
「兄さん!」
どうして、こんなに怒るのだろうか。
丼池が吹き出すと、車を路肩に止めて、俺の携帯電話を手に取った。
「俺は生葬社の丼池 成己です。事情は長くなりますが、お兄さんの特異体質に気付いていますね?」
丼池は丁寧に、俺が居ないと、弟の昴が起きていられない事、そのために、自分の両親が俺に黙って荷物を運び引っ越しさせ、同居させてしまった事を説明していた。
「昴と二人で暮らしているわけではありません。家族として、皆で暮らしています。君の兄さんをとても大切にしていますから、安心してください」
丼池が俺に携帯電話を戻してきた。携帯電話に耳を当てると、実徳の長い溜息が聞こえていた。
「……兄さん。俺は、兄さんが特別な存在だと、物心ついてからずっと知っていました。だから、俺が守るって、ずっと思っていました。今もです」
又、実徳の溜息が聞こえる。
最初のコメントを投稿しよう!