第1章

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「しっかし、遊部さん。裸もいいですね。無駄な肉がなくて」  昴が、弱った自分の足や手を見て呟いていた。 「足、マッサージしようか?」 「いや、いいです。裸でマッサージされたら、成己でなくても、のぼせそうです」  俺も湯船に疲れるほどに、丼池家の風呂は大きかった。一緒に風呂に入っていると、丼池が気になるのか、何度も声を掛けてくる。 「昴、出る時は声をかけろよ。俺が補助するからさ」  面倒なので、丼池も一緒に風呂に入ってしまえばいいのにと思うが、それは頑なに拒否されていた。 「成己、出るよ」  昴が声を掛けると、丼池がタオルを用意して待っていた。 「遊部さん、時間差で出てくださいね。俺、遊部さんの裸を見たら、理性が飛び、襲いそうです」  呟くように、丼池がすごい事を言う。 「はい、風呂に戻ります」  俺は、再び湯船に浸かると、時間差で風呂を出た。  部屋で髪の毛を拭きながら、百舌鳥に電話を掛けてみた。百舌鳥は、電話に出なかったが、暫くすると掛け直してきた。 「百舌鳥さん、安田君は通過者でした」 「そうね。生葬社の仕事だものね」  俺は、百舌鳥に安田から聞いた話と、織田から聞いた話を要約して説明してみた。 「ううむ。やっぱり、遊部君、現場を見てきて。秘密基地には、何かあるのかもね」  話から、俺は現場を想像していた。この想像は、多分、外れていない。ならば、安田の実家付近で、同じ建物を探せばよい。 「これから、行ってみます。明日の朝には、生葬社に戻れるかと思います」  問題は移動手段か。安田の実家も、かなり田舎であった。自転車での移動では、時間がかかりそうであった。 「百舌鳥さん、スクーターをお借りしてもいいですか?」 「いいけど。社用車を貸すよ。夜道は危ないからね。でも、朝でいいよ」  朝では、納屋に入っていたら目立つであろう。 「今から行きます」  それに、朝、俺が居なかったら、昴が目覚めなくて困る。朝には戻って来なくてはいけない。  そっと丼池の家を抜け出すと、自転車で生葬社へと急いだ。  生葬社の前では、車に乗ったままの百舌鳥が、鍵を持って待っていた。 「すいません、夜分に呼んでしまって」 「いいや。今、帰るところだったからね。はい、鍵。残業は、深夜割増をつけといてあげるよ」
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