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俺は、顔だけしか出せない窓から出るのは諦め、出入口を探してみた。
しかし、どこにも出入口がない。壁際に雑誌の山、柱の上にマンガ本、これは秘密基地のようでもあった。散らばったゲーム機、攻略本の山もあった。
壁を蹴り倒すと、どうにか外が見えたが、下には火が待っていた。
俺が死んだら、昴は又眠ったままになるのだろうか。喜んでいた丼池家の面々の顔が浮かぶ。昴の明日のために、俺は、逃げなくてはいけないのではないのか。
「誰か!いませんか」
叫んでも無駄であろうが、まず、出来ることからやってみた。
「遊部さん!」
丼池が一階のドアを蹴破り、二階の俺の姿を見つけた。その後ろに、百舌鳥と昴の姿もあった。
「あ、危ないから、外で待っていてください。俺、二階から飛び降りますから」
ふと、昴の車イスに我に戻った。
第三章 僕らはウソに殺される
足は縛られていないので、二階の壁を蹴ってみる。朽ちていたので、壁が音を立てて崩れてくれた。でも、出るまでには至らない。再度蹴ろうとすると、横に丼池が居た。
丼池はハンマーのような物を持っていて、壁を効率良く壊すと、俺を先に外に出そうとしていた。
「あの、腕の縄を解いて」
「はい」
俺は、腕が自由になると、壁超しに下へと降りてみた。ロッククライミングもしたことがあるので、家の壁ならば容易に降りられる。
下で、丼池を受け止めようと両手を開くと、丼池も簡単に降りてきていた。
「工事現場で慣れていますので」
地上に降りると、丼池が俺の頭の怪我を確認し、腰に下げていたタオルで抑えてくれた。
「遊部さん、犯人は素手ではなく、しかも、真向勝負なんてしないのですよ。遊部さんは、甘い」
百舌鳥も走ってくると、俺の怪我を確認していた。
「病院に行った方がいいね。ここには儀場が来るというから、儀場に任せて、俺達は去ろう」
俺を殴った犯人は分かっても、それでは、子供を殺した犯人にはならない。もう少し、捜査が必要であった。
丼池の車に乗せられると、俺の携帯電話が置いてあった。
「その携帯電話は、社用車の中に落ちていました。そこからは、昴が頼りでしたよ」
昴が反応する方向に俺が居ると探してみると、火事を見つけたのだそうだ。
丼池は運転すると、社用車の前に来ていた。俺が社用車に移ろうとすると、どこから出てきたのか、水早が先に降り、社用車の運転を始めていた。
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