第1章

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「……水早さん、運転ができたのですか」 「あれ、水早さんの車だからね」  しかも、丼池の車のどこに水早が乗っていたのだろうか。気配すらも分からなかった。 「さてと、まず、遊部さんを病院に連れてゆく」  タオルで抑えているが、頭が痛い。血で車を汚してはいけないので、レジ袋を被ってみると、昴がレジャーシートを出してきた。 「犬の散歩用のシートだよ。車を汚さないように敷く」  レジャーシートではなく、犬用のシートであったか。 「他に怪我はないの?何もされていない?」  頭が痛くて他は分からなかったが、服装が乱れていた。 「何かされたのかな?」  自分の服の下を見てみた。ベルトが外されているのが気になる。  じっと昴が俺を見ていた。車を止めると、丼池も俺を見つめる。 「……尻に違和感とかはありませんか?その、うまく締まっていないとか、挟まっているような感じとか」 「それはない。背中がヒリヒリする感じはある」  上着を脱いでみると、背を覗き込んでみた。 「あ、……」  昴が顔を背ける。 「あ……ああ……」  丼池がハンドルに顔を埋めた。  しょうがないので、自分で背の写真を撮ってみると、背中に文字が書かれていた。  熱湯で書かれたらしく、水膨れになって文字が浮かんでいた。 「ウソつき」  ウソつきと書かれている。尻のやや上まで文字が続いているので、それでベルトを外したのかもしれない。ズボンの感覚におかしい点はない。 「……遊部さん、病院で強姦されていないか検査をして貰ってください。この文字で警察が来るかもしれませんが、百舌鳥さんに言っておきます!」  病院でどう説明すればいいのだ。しかも、検査って何をされるのだ。  で、検査を省略すると、俺への疑いは晴れ、後ろは未使用、頭の怪我は避けたせいなのか、脳震盪のみで、あとは軽傷と診断された。一番ひどかったのは、背の火傷で、包帯だらけになってしまった。  検査のため、一晩入院して、丼池家に戻ってくると、丼池家の母親、美奈代が真っ青になって泣いていた。丼池はどんな説明をしたのであろう。 「遊部君。もう勝手に夜中に仕事になんて行かないで。お願い、心配したのよ。強姦されていなくて、本当に良かった」  俺は真っ赤になってしまった。丼池を見ると、真剣に美奈代の言葉に頷いていた。  検査のことは忘れたい。強姦でも、泣き寝入りしたいような検査をされた。そもそも、見られる。
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