第1章

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 それは、十年近く過去に遡り、彼らは小学生であった。織田には弟がいて、遊びに行くときは、必ずついてきていた。それが、心底、鬱陶しくて、山に行くときは海、海に行くときは山に行くと言って、織田は弟を置いて逃げていた。  その日は、海に行ったことにして、畑の物置でマンガ本を読んでいた。家にマンガ本を置いておくと怒られるので、購入した雑誌も、全て、秘密基地と呼んでいた物置に隠していたのだ。この秘密基地も、織田の弟の勇弥(いさみ)には秘密にしていた。 「ごめんね、秘密基地で。続き、読みたかった!」  織田は、見た目が女の子のようで、ストーカーがついていた。だから、秘密基地には織田は一人では来ない。  安田は、織田に頼まれて秘密基地に来ていたが、本を読む気分でもなかった。 「自動販売機に行ってくる」  ふらふらと自動販売機に行き、炭酸を飲みながら帰ると、悲鳴が聞こえた。秘密基地からで、安田は、秘密基地に走り寄った。  すると、秘密基地から何かを抱えた、大きな男の影が出てきたので、物置の後ろに隠れた。物置は無断で使用していたので、大人の男が怖かった。男が去って、どうしても気になって、中を覗くと、織田も物置の後ろの茂みから出てきた。 「織田っち、中にいたのではないの?」 「いいや、その前に逃げた。でも、安田っち。驚いたね……この基地、バレちゃったかな」  織田は、人が来たので、窓から出て物置の後ろに飛び降りていたのだ。  では誰の悲鳴であったのだろうか。  小屋の中は、何も無かったが、秘密基地に行くと、子供の靴が一個落ちていた。  本が倒れて、雑誌が破れていた。雑誌には血のようなものが、散っていた。  怖くてどうしょうもなくて、秘密基地から出ようとすると、又、物音がした。慌てて、窓から出て隠れていると、男が来て、靴と血のついた雑誌を持って去って行った。  それから勇弥が戻って来ないと騒ぎが起きた。ストーカーも消えた。 「勇弥は今も戻っていません。俺達は、秘密基地での出来事を、織田の母親に言いました。でも、それは違うだろうと言われました。勇弥がいなくなったのは、家の近くの公園で、小屋ではないからと」  子供の失踪であるのか。でも、それだけではない気がする。  この話のどこが変なのであろうか。俺は、言葉から世界を見るが、この話しは、ただの話で世界が見えなかった。
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