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「落ちていた靴は、子供の靴?どのようなものでしたか?」
「あまり、記憶がありません」
そうか、細部がないのか。大きな男、でも、見たのならば、他の特徴があってもいい。小さな靴も、そうだ。
「織田君にも会えるかな?」
「はい。でも、織田は入院しているので、ここへは来られません」
織田の話も聞いてみよう。
「百舌鳥さん、病院に行ってきます」
来られないのならば、行ってみるしかない。
俺は安田と、織田の入院している病院に向かった。
生葬社の客というのは、どういう経緯で来るのかは、全く分からない。生葬社も公務員となっているが、どこに所属しているのかもわからない。
オーナーと呼ばれる儀場については、更に不明の存在であった。ただ、儀場の能力を使用すると、代金ではなく、体か能力で支払いになる。
最近、ここに来た人を、儀場の餌食にさせまいと、俺は必死に働いている気もする。
生葬社も、普通の客には、手数料のみ徴収し他の代金は取らない。あくまで、俺達は公務員であるのだ。
駅から電車に乗ると、隣に座っていた安田が、地面を凝視していた。
「具合が悪いの?」
「いいえ……」
でも、安田の顔色も悪かった。血の気が引いてきているのかもしれない。
「……織田は、勇弥が居なくなって、表面では悲しんで心配していましたが、ある時、言ったのです。これで、邪魔がいなくなったね、と」
弟が行方不明で、兄の言う言葉ではない。しかも、帰って来ないよというような、響きを孕んでいた。
安田は、織田が生きている内に、真実を織田に語って欲しいのかもしれない。
「あ、降りるね」
駅に降りると、まだ早いのに蝉が泣いていた。蝉は、泣いていた、鳴いていたではなかった。
「ミンミンミン」
『仕事が辛くて過労死だった』
「ミンミンミー」
『俺はバカだ。何も言わずに死んでいた』
……蝉というのは、愚痴を言っていたのか。でも、たまたまなのかもしれないが、聞こえる声に俺は耳を塞ぎたくなった。
「遊部さんのほうこそ、具合が悪いのではないのですか?」
いいや、蝉の声に眩暈がしただけだ。この、言葉を翻訳してしまう能力のせいで、俺は、生葬社にスカウトされて現在に至る。
でも蝉に記憶があるということは、通過者なのであろう。通過者の記憶を回収するのは、生葬社の仕事であった。
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