第1章

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 管理人を頼まれたアパートに行ってみると、想像と異なり、かなり立派なものであった。  煉瓦風の三階建で、築五年、まだ新しい感じがしていた。定期的に清掃が入るせいで、廊下もエントランスも綺麗になっていた。  管理人室に入ると、運よく、使える冷蔵庫が残っていた。電子レンジもあったので、これで自炊はできる。  布団がないのだが、昔使っていた、寝袋はあったので、暫くは寝袋で眠ることにする。  最低限の家財も残っていたので、生活には困らない。  管理人の部屋は二部屋とキッチンで、他に風呂とトイレと、収納スペースがあった。俺には十分過ぎるスペースであった。 「さてと」  最低限の生活が確保されたところで、ここの幽霊騒ぎの状況を確認してみる。  管理人室から出ると、三階に上る。  まず、二階から三階へ続く階段で、黒い影が動く。 「確かに動くね」  窓と蛍光灯の加減と、人の移動で、影が動くように見えていた。冷静ならば、すぐに原因が分かるが、恐怖にかられてしまえば、これも耐えられない恐怖であろう。 「蛍光灯を明るくし、影を薄くする。位置を変えてみる」  ノートに、現象と対策を書き込んでおく。 「三階から、飛び降り自殺の霊が見える」  向かいのマンションで、飛び降り自殺が発生したという。そのショックで、鳥が飛んでいても、そう見えてしまうのであろう。 「そもそも、マンションの飛び降り自殺は、死んでいない」  重体であったが、死んではいなかった。  否定すればするほど、見えると思い込んでしまうものだ。いっそ肯定してしまえば、原因は見えてくる。  本当に霊なんてものがあって、いるのならば、それも肯定してしまえばいいだけだ。  このアパートの本当の問題は、別にある。  俺が歩いても感じるが、どうも廊下に傾斜がある。眩暈がしたように感じるが、歪みがあるのだ。  この気持ち悪さは、原因が分からなければ、霊の仕業に似ているのではないのか。 「修理が必要」  鍵で部屋の中に入ってみると、部屋の中には傾斜は無かった。しかし、間取りのせいなのか、空気の循環が悪い。  真っすぐに伸びた部屋割で、玄関から窓まで直線になる。風は吹き抜けてしまい、循環をしない。 「換気が必要」  空気が循環しないと、窓を開けていても、すぐに黴が発生してゆく。変な咳などが、長く続いたのではないのだろうか。 「他に部屋に問題はなし」
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