第1章

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 何度も引っ越ししたが、問題の全くない部屋は少ない。この程度ならば、原因が分かれば対応できる。  状況が分かったところで、管理人室に戻ると、備え付けの電話が鳴っていた。 「もしもし、どなたですか?」  急いで電話に出ると、相手の声は分からない。 「……今から行く……」  ノイズも入り、声もよく聞き取れなかった。  今から来ると言われても困る。戸締りをすると、購入してきた弁当を食べてみた。 「不味い……」  ここの所、皆で食べていたので、一人で食べていると不味く感じる。食欲がわかないという感じであった。でも、何しろ貧しい状態なので、弁当をご飯とおかずに分け、冷凍できるものは冷凍にしてみた。生野菜は捨てるしかないが、ごはんは明日にでも食べることにする。  これならば、牛丼でも購入すれば良かった。 「風呂に入るか……」  昴は眠ったままなのだろうか、心臓のあたりにチクリと刺さる。  風呂は意外に大きく、しかも綺麗であった。 「快適」  風呂に入ろうと支度していると、エントランスに誰か入ってきたような、物音がした。こんな夜分に何の用であろうか。窓から、覗いてみると、誰も居なかった。  それでは風呂にするかと、エントランス側のカーテンを閉めようとして、窓に人が立っていた。 「うわああ」  流石に驚くと、相手も驚いていた。 「電話を掛けた、船生です。って、あれ、大人のおもちゃの少年と居た子だよね?」  大人のおもちゃは、俺は購入していない。でも、船生のことは覚えていた。鮫島の店に来る、変人であった。 「何ですか?こんな夜更けに」 「だから、電話で説明したって。アパートを追い出されてね、ホテル住まいだと言ったら、鹿敷さんにここを紹介された」  何故、アパートを追い出されたのだ。船生の言動に問題があったのではないのか。 「でも、こんな夜分に来ることはないでしょう」 「今日の宿泊に困っていたからだよ」  船生を管理人室に入れると、仕方なく茶を出した。 「まだ見ていないけど、なかなか住み易そうなアパートだよね。住人はゼロだろう?俺が二部屋借りるよ」  何故、二部屋なのだ。すると、船生は、パンフレットを出してきた。そのパンフレットは会社案内で、社員数と営業所、配送センターの位置のページを出してきた。会社の営業拠点のような一覧であった。  かなり営業所が多い、配送センターも東日本、西日本に分かれている。
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