第1章

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「皆宿泊に困っていてね。出張旅費も少ないからさ、いいところには泊まれない。そこで、互いの家を貸し合う風潮があるのよ、この会社」  船生の説明によると、一泊八千円の宿泊費が泊めた相手に振り込まれる。船生は金が目的というわけではなく、貸しておけば、自分も出張の時に、家に泊まらせて貰いやすいという。 「それに、二部屋割引をしてくれるというしさ」  ここの大家は誰なのであろう。もしかして、鹿敷の持ち物ではないのか。 「では、一階の部屋をご使用ください」  鍵を渡して船生を追い出そうとしたが、船生は風呂の中を覗いていた。 「部屋に行けって言ったって、電気も水道も止まっているでしょう」  まさか、ここに泊めろというのだろうか。 「ええと、一階の一部屋は、最近まで住んでいたので、電気、水道は止まっていません」  書置きのような、部屋の図と鍵の№の一覧を見比べてみた。一回の一部屋は、先週まで人が住んでいた。 「分かったよ」  船生は、自分の荷物を担いで立ち上がった。 「では、案内します」  鹿敷の電話番号を知らなかった。百舌鳥からメールで、部屋を借りる人が行くから案内しておいてとあるので、連絡は行っているのであろう。  鍵でドアを開けて、中の電気を付けてみた。明るい部屋に見えたのは、壁紙がとても白かったせいであった。  中は空だが、上の電灯は付いていたので、どうにか寝泊りはできるのではないか。風呂を確認すると、湯は出るが、風呂の蓋は無かった。  トイレの水も流れる。しかし、カーテンが無いので、外から丸見えであった。雨戸はないのかと窓を開けると、強い風が吹き込んできた。  今日は、こんなに風が強かったであろうか。目を開けられないような、突風であった。  でも外には、シャッターのように、上から降ろす雨戸があった。ならば、最初から閉じておいて欲しいものだ。 「まあ、いいね。角部屋だね、ここ」  角部屋なのだが、隣から何かの声が聞こえていた。この声は何であろうか。玄関から外に出て、廊下の窓から海中電灯で外を照らしてみた。窓越しに、隣を確認すると、異常に近い隣家?のようなものがあった。 「何故、こんな場所に犬小屋が?」  また、犬小屋なのか。しかも、柴犬のような犬が小屋から顔を出した。どうして、こんな場所で犬を飼っているのだ。 「あ、メモだ」  隣家の犬は、家賃を払って住んでいる。犬の家賃の分は、角部屋は安い。
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