第1章

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 犬もこのアパートの住人であるのか。それでは無下にはできない。犬に手を振って窓を閉じると、再び、船生のドアを開いた。 「船生さん、うわあああ」  船生が裸で立っていた。 「ああ、風呂に入りたくてね」 「すいません!」  慌ててドアから出ようとすると、裸のまま船生が俺の腕を掴んだ。 「どうしたの?」 「隣の犬は住人で、犬の分、この部屋は安いようです。犬がうるさいでしょうし、部屋を変えますか?」  今も、犬の鳴き声が聞こえていた。 「あ、いいよ、ここで。どうせ、あまり部屋には居ないから」  船生は、犬を気にするような人ではなかった。犬どころか、俺も気にされていない。せめて、大事な箇所は、タオルで隠して欲しい。 「では、俺は管理人室に戻ります」  俺も風呂に入りたい。  管理人室に戻ろうとすると、他の部屋から物音が聞こえていた。  猫でも入り込んでいるのだろうか。一旦、部屋に戻ると、該当の部屋の鍵を持って出た。  その部屋には電気がきていない。懐中電灯で部屋を照らしてみると、中には何も居なかったが、風で回っている換気扇があった。 「換気扇?」  どこに換気扇のある部屋なのだ。開いたままの押し入れの中に、何故か換気扇が付いていた。  換気扇の空気は、パイプで外に流れているらしい。パイプを辿ってゆくと、クーラーの換気と同じ場所に繋がっていた。 「電気がきていないのに、換気扇はまわるのか?」  換気扇を見ていると、電池で動いていた。ここに電気の配線を持って来られなかったのだろう。でも、換気のパイプを頑張ったのだから、電気も付けるべきだろう。 「中途半端だ……」  入りっぱなしであった、換気扇のスイッチを切ると、再び管理人室に戻った。 「さてと、風呂」  やっと風呂に入れると思ったら、今度は丼池からの電話であった。 「丼池君?どうしたの?」 「……そのアパートはダメです」  丼池が、なかなか説明しないので、俺が電話を切ろうとすると、教えてくれた。  このアパートに住んでいた人の中に、回収屋がいた。回収屋は、ここの住人に異物(インプラント)を渡し、再生をかけていた。回収屋は、退行睡眠の練習だとか、心理分析だとか理由をつけて、住人に一回幾らという礼金を払っていた。 「そこで、トラブルが発生しました」  住人の女性が、幻を見るようになり、精神科に入院した。次に、受験を控えた高校生がノイローゼになった。
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