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「昴が目覚めないのが、遊部さんがいないせいかもと思っても辛くて仕方がないのですよ」
そして、俺が居ても昴は目覚めなくなってしまった。
昴は丼池の恋人かもと、俺への興味で目覚めたと言っていた。俺が、恋人ではないと分かったので、興味が無くなってしまったのか。
眠ったままの昴は、どこか死体のようで、息もしていないように見える。
「昴は、遊部さんに見捨てられたと思って、自ら眠りに入ってしまったのでしょう。そんなふうにメモを残していました。当たり前の日常が無くなるというのは、日常が殺されたみたいに辛い」
殺された日常、そうか、丼池は俺を恨むのか。
俺が、家族を怖がって逃げたのが悪い。昴には、まだ、俺しか方法が無かったというのに、俺はここにいられなかった。
「なあ、昴。俺が管理人を引き受けたアパートには、回収屋が関与している」
俺は、アパートの間取りや状況を、昴に呟いてみた。
丼池は、俺から黙って離れると、コーヒーを持って戻ってきた。
「でな、住むと死にたくなるアパートって何だ?」
細かく、追い詰めるように、恐怖とどん底を体験するアパートとは何なのか。
「しかも、鹿敷が新しい住人を入れてきた」
船生もどこか変人であった。
「……回収屋か、自分で調べるしかないよね。会社に行くよ」
俺がコーヒーを飲み、座っていた昴のベッドから立ち上がると、服が何かに引っ掛かっていた。
何に引っ掛かっているのかと、俺が振り返ると、昴が服を掴んでいた。
「俺も、会社に行きます。そのアパートは、回収屋が確かに関与しています。どうして、遊部さんは、いつも、危険に首を突っ込みますか?」
昴がのろのろと起き上がると、松葉杖を探していた。俺が松葉杖を渡すと、服を着替える。
「美奈代さん、遅刻しそうです。朝食を弁当でお願いします」
「はい!!!良かった昴ちゃん!」
美奈代は起き上がると、キッチンに走って行った。
「決めました。俺も管理人室に行きます」
それから、少し昴から説教をされた。日常というのは生き物で、日常が終わるというのは、日常を殺す殺人に近いそうだ。皆、終わりを乗り越えて、続きの人生を歩むので、その辛さが紛れているだけであった。
「遊部さんは、俺の日常、眠っているだけを終らせたのです、責任を取ってくださいね」
責任なのか。
弁当を持った昴は、嬉しそうに車に乗り込んできた。
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