第1章

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 昴は、車の乗り降りも補助なしになっていた。数歩ならば、自力で歩いているので、普通に歩ける日も近そうだ。  生葬社に到着すると、いつもよりも遅かった。遅刻ではないが、掃除をしている時間がない。  百舌鳥がやってきたので、アパートに新しい住人が来たことを告げた。 「そうか、船生君か。彼も変人だよね。こっちで仕事をしているのか、彼、海外の時も多いからね」  儀場や百舌鳥の知り合いは、変人しかいないのか。 「でも、船生君に恩を売っておくのは、正解だね。彼は、有能だからね」  確かに安田の悩みは解決していた。 「百舌鳥さんの知り合いで、ほっとしたような、不安なような気分ですよ」  百舌鳥が有能と言うのならば、船生は回収屋ではない。でも、変人は確定した。 「アパートは面倒だね。死にたくなるは、回収屋の十八番だからね」  百舌鳥の説明によると、死にたい場合は、異物(インプラント)を取り出し易いのだそうだ。 「遊部君にアドバイスするとね、外すのではなく上回るでいい」  どういう意味なのであろうか。 「昂。回収屋って、どんな集団なの?」  昴は、開いていたノートを閉じた。 「集団ではなく、個人ですよ。買い取りの場所に持ち込むだけです。師匠と呼ばれる人がスカウトして、技術を学ばせてくれます」  師匠は、修行中は無給、一人前になってからの最初の一年間は、技術料として一割を取る。  技術は様々で、昴は儀場の夢を共有できるということが、高く評価されていた。回収屋にとって、儀場は敵に近かった。 「俺は、この能力自体は回収屋には向きませんでしたよ。情報は売れましたけどね」  儀場も百舌鳥も、昴の存在を知っていたらしい。昴の言葉にも、百舌鳥は動じていなかった。 第八章 迷宮に隠す  昴が、管理人室を見たいというので、帰りに寄ってみようかと思っていると、百舌鳥は仕事中に行ってもいいという。  百舌鳥は、死にたくなるというのが、気にかかっているらしい。 「では、行ってきます」  昴を連れてアパートに行くと、船生は仕事に行っていた。  誰もいないアパートの空き部屋は、どこか黴のような臭いがしていた。 「空気が悪い」  昴は、鍵で部屋を開けては、文句を言っている。誰も住んでいなくても、やはり、換気はした方がいい。空気が澱むと、苦しく感じる。 「うううううう」
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