第1章

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 変な声に、昴が飛びのいていた。周囲を見回し、昴が確認するように俺を見る。 「それ、犬」  窓を開けて昴に犬を見せようとすると、犬が窓から飛びこんできた。 「うわああ」  首輪は付いているので、繋いでいるリールがないのだ。 「ワンワンワン」  この犬、喋っていた。訳すとこうなる。 『回収屋のやつは、また、さぼっているのか?今日もあるぞ』  何があるのだ。犬は走って行って、階段の下で又吠えた。 「わうんん」 『ほら、ここに落として行った』  犬の吠える先には、異物(インプラント)が落ちていた。 「わんわんわん、わん」 『ここに自殺に来て、死の恐怖に落としてゆくのだよね。異物は一個で限界なのだよ、人間は弱い』  昴が異物(インプラント)を拾おうとしたので、俺は、ハンカチで急いで包んでポケットに入れた。 「わん、わん、わんわん」  俺が吠えても通じるのだろうか。何故、異物(インプラント)を複数個も持っている人間がいるのだ。 「わんわんわ、ん」  通じたようで、返事がきた。 『お前何だ?異物(インプラント)は回収屋が与えたものだよ、元々が通過者だと、自殺で、自分で異物(インプラント)を落とそうとしたよ』  それから、異様な光景であるが、犬と世間話をしてしまった。犬は、オウムの異物(インプラント)を回収屋に与えられてしまったのだそうだ。それから、人の言葉も分かるし、記憶も持っていた。  元々が通過者であるのに、更に異物(インプラント)を与えると、記憶が重複され、狂ってゆくらしい。ただ記憶が再生され消えた状態よりも、症状は重い。  ただ異物(インプラント)を与えられただけならば、自殺しようとした瞬間に、異物(インプラント)が抜ける場合が多い。死に直面して、人生観が変わったと、当人は思うのだそうだ。 「回収屋って、嫌な奴だな」 「ワンワン」  そうか、言葉が通じるのだから、俺が犬のように吠えなくてもいいのだ。 『俺様の飼い主は……』  頭が良くても、やはり、犬なので、飼い主がいるのか。  飼い主?この犬の飼い主は、異物(インプラント)を知っているのではないのか。もしかして、回収屋なのか。  そう思った瞬間、部屋から飛びだしてきた男に、昴が殴り飛ばされていた。 「昂!」  咄嗟に立ち上がったが、犬に足元を走られてしまい、バランスを崩した。
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