第1章

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 泣いていたのか?目をこすると、涙が出ていた。 「襲われて怖かったのが、安心したからね」  そうなのか?俺は、消えた人達の世界を見てしまった。一人で、孤独で、絶望していた。人は、一人では生きていけない。でも、繋がろうとすると、人には壁があるのだ。  その壁を乗り越えることは、優しさだったり思いやりであったりで、強さだけではない。ましてや、自分が可愛いばかりに、人を傷つけてばかりいれば、いつか一人になってしまう。  その中で、だから子どもを作ったのと、聞こえていた。子供は自分を見捨てない。でも、子供は去っていった。そこで、涙が流れたのだ。 「やはり、俺も回収屋が許せません!人の心の寂しさで殺すなどダメです」 「そうだねえ、遊部君、俺、遊部君を泣かしたと思われているのかな?犬がかみついている」  ラッシーは、人の言葉がわかるので、百舌鳥のせいではないだろう。 「ラッシー、どうしたの?」 「ワンワンワン」 『儀場の匂いがする』   ラッシーと一緒に、俺も百舌鳥を睨んでしまった。百舌鳥から儀場の匂いがするというのは、つまりは、寝たということであろう。 「ラッシー送ってゆこうか?」 「ワンワンワン」  自分で帰れるらしい。 「遊部君、管理人は船生に頼んだよ。船生は二部屋の代金で、管理人室にも住んでいいことにした。喜ばれたよ。船生は、回収屋にも詳しいから、大丈夫だからね」  そうこうしている内に、アパートは船生の会社の社員寮のようになってしまっていた。  俺は、荷物をまとめて、再びアパート探しの立場になった。 「帰る部屋がありません」  生葬社の床に、寝袋で眠ろうとしていると、昴が家まで送っていけという。丼池の姿を探すと、何か買い物があるからと、先に帰ってしまっていた。 「しょうがないな」  車に乗り込むと、昴がにこにこと乗り込んできた。  丼池家に到着すると、美奈代が抱き込んできて、キッチンまで手を繋いで引っ張られてしまった。 「さあ、夕食よ」  今日は和食であった。炊き込みご飯がおいしい。 「昂のお風呂を手伝ってくださいね」  着替えを持っていないからと、断ろうとすると、代えの下着類が美奈代から渡されていた。 「あの、どこから、これが」  質問の類は一切受け付けない、強い笑顔が美奈代にあった。 「はい、風呂に入ります」
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