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昴は、風呂場でならば、一人で歩けるようになっていた。これならば、もう一人で大丈夫であろう。
「遊部さん、背中を流してね」
痩せた昴の背であるが、どことなく筋肉も戻ってきていた。
「はい、出るよ」
昴をバスタオルで拭いてから、自分の体を拭いていた。そこで着替えを探すと、下着はあるが服が消えていた。代わりにパジャマが用意されていた。
「服はどこ?」
パジャヤマを着て服を探していると、丼池が歩いていた。
「丼池君、俺の服を知らないかな?」
「部屋にありますよ」
どこの部屋なのか、丼池が明けた扉の中に入ると、服があった。
服だけでなく、俺の荷物が全て部屋にあった。
「どういうこと?」
窓を開けると、防犯用という名の、鉄格子がはまっていた。
ドアを開けようとすると、外からでないと開けられないようになっていた。
「軟禁だよね、これ」
「逃げたのが悪いのです」
声の方向を向いてみると、居間に向かって嵌め殺しの窓があった。そこで、丼池家が団らんしていた。
「トイレとか、どうするのですか?」
「部屋にあります」
美奈代が即座に答えてくれた。
「黙っていなくなるなんて、どんなに悲しいか。暫くその部屋で反省してください」
ここは、反省部屋であるのか。
「この部屋を作ったのですか?」
「いいえ、親の介護に使用した部屋です。痴呆と、徘徊があったのでね」
俺は、老人と同じ扱いなのか。
俺は居間側の窓を、カーテンで閉めると、ドアに近寄る。
閉じ込められれば、出たくなるというのが、人の性だ。しかも、電子制御は、俺の十八番であるのだ。俺の荷物はあるので、ドライバーを出してから、ふと天井を見た。
天井ならば、簡単に出られる。
外れる天井から部屋の外に出ると、隣の部屋に降りた。
部屋に降りて、服の埃を叩いていると、部屋には丼池が立っていた。
「そんなに、嫌ですか?」
丼池が俺を抱き込んできた、黒煙に近寄られたときは嫌悪しかなかった。けれど、丼池だと安心する。
「嫌じゃない。怖い……だけ」
丼池の手が、そっと俺の顎に添えられる。風呂に入ったので、汚くはない。けれど、やはり、自分が汚く感じて、顔を背ける。
「俺では、ダメですか?」
肉体関係という面では、ダメだろう。でも、黒煙と同じという意味ではない。
「黒煙に触られて、俺、汚い……」
ゴキブリを手で握り潰したら、その感触は長く不潔として残るだろう。
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