第1章

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 テラスから道も見えていたが、そこに安田の姿が見えた。安田に向かい、織田が手を振っていた。  織田を見つけると、嬉しそうに安田が笑い、立ち止まって大きく手を振って返した。 「笑顔、可愛いね……」  織田は、安田から目を離さない。織田の目は、自分の子供でも見守るように優しかった。 「でしょう。俺に向けられる笑顔は、特別ですよ」  この笑顔を失いたくないから、織田は告白できないのか。  全信頼で笑いかけてくる安田の笑顔が、僅かに曇っても、とても悲しい。 「織田、又、無断で病室を抜けだしたよね?」  来るなり安田が怒る。織田が、笑いながら誤魔化そうとしていた。 「いや、遊部さんに話を聞いて貰っていたよ」 「ええ、織田君の話は聞き終わりましたので、俺は帰ります」  安田が頷いたので、俺は喫茶店を出た。そこに電話がかかってくると、相手は丼池であった。 「どうしたの?」 「迎えに行きます」  電話を切られていた。俺の居場所が分かるのだろうか?心配無用のようで、病院の前で丼池の車を見つけた。 「よくわかったね?」  丼池が後部座席を目で示した。後部座席には、眠っていた昴が居た。  昴は、俺が起こす前に目を覚まして、現在位置を確認した。 「はい、遊部さんを追えるようにセットしていますから」  どう追ってくるのだ。昴が携帯電話を出したので、俺も出してみると、頷かれていた。  携帯電話の位置で把握しているのか。何だか怖い。 「百舌鳥さんには言ってきました。家に帰りましょう」  まだ、勤務時間ではないのか。俺が時計を確認すると、昴が俺の時計を手で隠した。 「百舌鳥さんが、いいと言ったのです。遊部さんは放って置くと、ずっと仕事をしてしまうので、強制帰宅させろってね」  車の助手席に乗り込むと、ほんの少し丼池が笑顔を作る。 「遊部さん、過去を夢の共有で見ましてけど、綾瀬さんに向けた笑顔は百%の信頼でしたね。成己には、三十%あたり」  昴が謎の数値を出してきた。 「俺、綾瀬には全開の笑顔だった?」  自分の笑顔指数など把握していない。走り出した車の中で、俺はバックミラーに自分の笑顔を写し、首を傾げた。 「全開ですよ!物凄い破壊力でしたよ」  破壊力とは何なのだ。どうにも、昴の発想にはついていけない。 「俺も、信頼してください」  成己は小さく呟く。 「で、何があったの?」
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