scene.5

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まだまだ暑い日が続いてはいても、教室から見える景色は毎日少しずつ変化している。 時折サラリと吹き抜ける風に、次の季節の兆しを感じる。 私は窓の外をぼんやりと眺めながら、そんなことを考えていた。 「ねぇ」 同じクラスで仲のよい友人、間宮杏奈から声をかけられ、私は顔を上げた。 杏奈を見ると、なんだかわくわくしたような顔。 「どうしたの?何かいいことあった?」 「いいことあったのは、舞でしょ!」 「は…?」 私が眉を顰めると、彼女は「またまたぁ!」と言って、私を小突く。 そんなこと言ったって、何のことだかわからないっ! 私は困惑した面持ちで杏奈を見上げた。 「昨日、見ちゃったもん!」 「何を?」 「舞がすんごく格好いい人と一緒にいるとこ!」 「……あ!!」 杏奈の言葉でやっと思い当たる。 そういえば、昨日は斎に送ってもらったんだった。 学校帰りに変な輩に絡まれ、それを蘇芳館の皆に助けてもらった。 その時もそうだったけれど、それから時々斎は私を送ってくれるようになったのだ。 理由は、いくら尋ねても答えてくれない。 まぁ私にとって異存はないから、ありがたく送ってもらっていたけれど、それを杏奈は目撃したらしい。 「ね、誰?どこで出会ったの?」 「出会ったのって」 「私さ、あの人どっかで見たことあるんだけど…」 「そうなの?」 私は驚いて杏奈を見た。 彼女はコクンと頷き、うーーんと考え込む。 「あの人、芸能人?」 「はぁっ??」 まるで見当違いな杏奈の言葉に、私は目を丸くする。 容姿だけ見ると、確かにそうでもおかしくないけど、あの性格で芸能人は向かないと思う…。 苦笑いをしながら首を横に振る私を見て、杏奈は視線を上げて、自分の記憶を辿るような仕草を見せた。
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