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ーー酷い臭気が鼻孔を刺激する。
放置された清掃道具のせいだろうかーー
怖い。恐怖で心臓が潰れてしまいそうだ。なんで…どうしてこんな事になってしまったんだろうーー
堪えていた涙が、地面に落ちる。
ーー刹那、教室のドアを、何かが叩いた。
思わず彼女の体がびくつく。
奴が来たのだ。あの童女が。
でもドアは閉めたから入って来られる心配はーー
ないと思いたかったのだろう。しかし彼女は気づく。いや、気づいてしまう。
教室の扉は、もう一つあるという事に。
そして彼女が気づくと同時にーー教室の扉は、無情にも開かれた。
少女の体が一層激しく震えだす。
歯がガチガチと音を鳴らす。
猫のような瞳からは大量の雫が溢れる。
ーーどうしてこんな単純なミスを犯してしまったのだろう。
後悔の念が押し寄せる中、奴の足音が、彼女には死神の足音に聞こえていた。
なんとか奴の動きだけでも確認しようと、ロッカーの微かな隙間から外を伺う。
月の光に照らされた奴の姿がそこには見えた。が、しかしーー次の瞬間、奴は彼女の眼前に立っていた。
「みぃつけた」
ゆっくりとロッカーの扉が開かれる。
「おねえさんのめ、きれいだね。」
童女の深淵のような双眸と、目が合った。
逃げなければいけない。そんな事は分かっている。だが、恐怖で体が動かないのだ。まるで、蛇に睨まれた蛙のように。
「ーーねぇ、おねがい。」
童女の小さな手が、少女の瞳に伸びる。
「アナタノ眼ェチョウダイ」
ーー髪を掻き分け、少女の頬に触れられた血濡れた手の嫌な感触が、皮膚を襲う。と同時に、目に激痛が走った。
童女の細い指が、己が眼窩に侵入したのだ。
逃げようと必死に抗うが、体躯に似合わない童女の万力が、それを許さない。
高々と笑う童女。
ーー瞬間、何かが潰れる気味の悪い音がした。
そこで少女は事切れる。
ーー後に残ったのは、瞳を失った少女の遺体。
そしてその顔を恍惚に歪め彼女を見下ろすーー異形の者。
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