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古びた窓から月明かりが差し込む木板の廊下に、二つの足音が響く。
片方はーー制服に身を包み、まだ真新しいローファーをカツカツと不規則に鳴らす、高校生ほどの少女。
彼女が息を切らし、細い腕と濡羽色の髪を振り乱しながら何度も後ろを振り返っている様子を見る限り、何かから逃げているのだろう。
恐らく、もう一つの足音から。
それはーー黒く長い髪をだらりと垂らし、まるで糸で操られているかの如く不気味に動く、血で肌も服も赤黒く染まったーー異形の者。
酷く歪で、童女のような甲高い声で笑い続けるそいつは、それだけでも十分に不気味なのに、更に、眼も無い。
本来なら二つの球がある筈の眼窩には何も無く、ただぽっかりと黒い穴が空いていたーー
不意に、少女が走る方向を変える。
眼前には誘うかの様に扉の開いた一室。
彼女は勢いよくその中へと駆け込むと扉を締め、忙しなく鍵をかける、そして辺りを見渡した。
周囲にはボロボロになった幾つもの机と椅子、色褪せた黒板、所々が錆び付いたロッカーが二つと、以前はこれらを使って教師と生徒が和気あいあいと授業に取り組んでいた事だろう。
しかし、人々の笑顔はもうそこには無い。
今あるのは静けさと寂しさだけだーー
彼女は隠れる場所を探していたらしく、音をたてないよう細心の注意を払いながらロッカーへ近づくと、慎重にその中へと身を忍ばせた。
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