夜の卵 其の参

3/6
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「期待して読んだら、二流恋愛小説みたいで、がっかりです。」 私は、そう書き込むと、送信ボタンを押した。 すごく充実した気分になった。 そうよ。こんな話。たいした話じゃないじゃない。 それなのに、明るい話術で人を虜にして、内輪で盛り上がっちゃってさ。 ちやほやされて、調子に乗ってるんじゃないわよ。 美佐子は消えたテレビの黒い画面に映りこんだ、自分の老け顔を見て舌打ちをして、リモコンでテレビをつけた。すると、若くて美しい女優が天然ぶりをいかんなく発揮し、お笑い芸人を笑わせている。 「ふん、こんな番組ばっかりだわ。面白くもない。本当はいつもはお高くとまってんでしょ?」 美佐子にとって、何もかもが面白くない。 年齢のわりに若く見えるお隣の奥さんも、主婦でありながら、何かに打ち込んで輝いています、みたいな女も反吐が出るほど嫌いだ。面と向かって、何かを言えば、きっとあなたはどうなのと批判される。 私だって、好きでこんな姿になったんじゃないわ。子育てが終わり、ようやく自分の時間が持てると思った時にはすでに時遅し。女性として輝くにはもう年を取りすぎているし、ずっと専業主婦だったから、何のスキルがあるというわけでもない。 上達したことと言えば、インターネットで鍛えた、タイピングの早さくらい。でも、タイピングが早い人なんて、この世の中にごまんといる。そこで美佐子はいろんなサイトで小説を読み、レビューを投稿し続けたのだ。 最初こそは、感動して、絶賛のレビューを送っていたのだが、だんだんと嫉妬の心のほうが強くなって、批判のほうが多くなって来た。 一日のうち、出かけることなんて、せいぜい近所のスーパーに行くことくらいだわ。 あ、しまった。卵を買い忘れたわ。 もう、日が暮れてしまっている。でも、明日の朝ごはんに卵は必要。 美佐子は仕方なく、アパートの玄関の鍵をかけて、買い物に出かけた。 自転車を漕いでいると、どこか遠くから祭囃子が聞こえてきた。 ああ、そうか。今日はご近所で夏祭りがあるんだっけ。 子供達はきっと、友人と出かけているのだろう。どうせ、主人は付き合いだと言って、夜は遅くなる。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!