夜の卵 其の参

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たまには羽を伸ばすか。 美佐子は自転車を商店の駐輪場に置くと、歩いて祭りの会場へと向かった。 多くの露店が軒を連ね、美味しそうな匂いが漂っていた。 ご飯はここで済ませますか。美佐子が屋台を物色していると、端っこのほうに小さな、他の屋台よりは随分と照明の暗い店を見つけた。 その店頭には、真っ白な卵が所狭しと並んでいる。 不思議な気持ちでその店を覗いていると、若いとも老いてるとも、男とも女ともわからない店主がこちらを見て微笑んできた。 「奥さんは、この店が見えるんだね?」 何を言っているの?見えるとか見えないとか。 「この卵は?何かお菓子か何かなの?」 美佐子が訪ねると、店主は答えた。 「これは夜の卵さ。お菓子ではないよ。」 「夜の卵?」 「そうさ。夜の卵。奥さんは第四の色が見える、特別な目を持った人と見受けた。」 第四の色?何それ。この人、危ない人なのかしら。 そう思って立ち去ろうとすると、店主はその卵のうちの一つを手渡してきた。 「持ってお行き。これをどう使おうとアンタの勝手さ。」 「無料なの?」 「ああ、御代はいらないよ。ただし、タダではないけどね?」 そう言うと店主はニヤリと笑った。 御代はいらないと言いながら、タダではないとはどういうことだろう? しかし、これで卵を買わずに済んだ。どうせ子供達は朝ごはんは食べない。 主人も私と話をしたくないのだろう。愚痴を山ほど言いたいのに、逃げるように朝早く出かけるのだ。 無料ということならありがたくいただいて帰ることにした。 しかし、美佐子は、卵を持ち帰ったものの、あの店主の不気味な笑いを思い出すと、どうしても食べる気になれなかった。何かが食べてはいけないと、警告しているような。そこで、鏡を覗き込んで、美佐子は良いアイディアが浮かんだ。そうだ、食べるのは気持ち悪いから、パックにしてしまえばいい。美佐子は卵をボールに割ると、泡だて器で静かにかき混ぜるとヒタヒタと顔に塗りつけはじめた。少しでも昔の肌に戻りたい。若くてちやほやされたあの頃の肌に。  そして、パックをしている間に、いつものようにいろんなサイトを見て回り、小説、エッセイ、ブログなどに、いろんな批判を書いて回った。賛同してくれる意見があれば、もっといい気分になれた。素人がプロ気分で調子に乗って人気を得ようったってそうは行かない。
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