夜の卵 其の参

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一通り作業を終え、パックを洗い流すと、すがすがしい気分で、床についた。  顔がヒリヒリする。痛い!美佐子は、飛び起きた。どうしたんだろう。あのパックがまずかったか。美佐子は慌てて鏡を見た。すると、鏡にはのっぺらぼうの顔が映っていた。 「嘘でしょう!」 美佐子は叫んだ。顔はのっぺらぼうになっているが、肌はツルツルになっていた。いくら肌がツルツルになっても、こんなのはイヤ!泣きたくても涙が出ない。その時、美佐子のパソコンが勝手に起動した。  その画面はいつも、美佐子が批判をしている女の小説のブログだった。あの恋愛小説家気取りのいけ好かない女のブログだ。しかも、そのブログはユーザー画面になっている。口汚く罵っている、私のコメントが並んでいた。何なのこれ?  一睡もできずに、朝を迎えると、見知らぬ家族が家に居た。 「あなた達、誰?」 そう言うと、その家族はポカンとした顔で、私を見た。 しまった。今の私はのっぺらぼうだった。 「誰って、お母さん。何言ってるの?」 笑いながら若い娘が言う。 「お前、寝ぼけてるのか?」 しらない中年の男が言う。 これは私の家族ではないし、この人たちは、何故こののっぺらぼうの顔を見て何も言わないのだろう。 何かがおかしい。 よく見れば、この家は誰の家なのだ? これは夢なのか? 家族が出掛けたあと、私は手がかりを得ようと、パソコンを開いてみた。 すると、そこには、いつの間にか小説が投稿されており、それに対してすぐに批判がされてあった。 その名前は私のハンドルネームだった。 こんなことは書いた覚えもないのに。 小説はそこそこ面白いものだった。しばらく夢中になって読んでいた。まるで自分が書いたような気がしていた。それに対して口汚く罵るコメントが書いてある。 「まるで二流小説」 二流で当たり前ではないか。素人なのだから。 一流なら、プロになってるっつうの。 私は、そこで初めてはっとした。 そうか。きっとこんな気持ちで、作者は私のコメントを眺めていたに違いない。 顔の見えない者による心ない批判。 もしかして、私は、それでのっぺらぼうになっちゃったの? 美佐子は、しわくちゃでもいいから、元の顔を返して欲しかった。 あれほどうとましく思っていた家族に会いたかった。 のっぺらぼうだから、泣くにも泣けないのか。
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