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もう一度だけ彼の顔が見たい。もう会えなくなってしまう前に。
そう思い立った私はゆっくりと後ろを振り返った。
それに気が付いた村人が顔を真っ青にして指をさした。
「こちらを見るな!!!」
村人は一斉に自分の目に手を覆い、私を直視しようとはしない。
私はそんなのはお構いなしに、彼の姿を探す。必死に探すがどこにも見当たらない。
いよいよ焦っていると、一人だけまっすぐに私を見つめる目をとらえた。
それは、私が探していた彼とは違うものの、私を慕ってくれた人物であった。
彼は村人に後ろから押さえつけられ、怯えた目で手に石を握らされていた。
「神楽!!早くそれを投げつけろ!!」
「嫌だ!!!!」
「うるせぇ!!早くしろ!!目を合わせたら俺たちは死んでまう!!目を見れるお前が投げろ!!」
「嫌だ!!!離せ!!!」
彼はまだ小さい子供だ。成人男性の力にかなうはずもない。
着衣が乱れながらも、彼は抵抗を続ける。悔しそうに目に涙を浮かべながら私を見ていた。
「離してあげて!!神楽にこんなことをさせるなんて酷です!!」
と、一人の女が目をつぶって彼を押さえつけている村人につかみかかった。
「…うるっせぇ!!!」
村人は神楽が持っていた石を奪い取り、そのまま女にぶつけた。
鈍い音がした後、女は途端に崩れ落ちた。
「…母さん…?」
神楽、という名のは、力の抜けた村人の手からすり抜け、倒れた女に駆け寄った。
「母さん!!母さん!!!」
「…し、知らない…俺は知らない!!この女が悪いんだ!!」
男は震えた声でそう叫び、女と彼から離れていった。
神楽は倒れた女にすり寄って小さな嗚咽を漏らしていた。
何も出来ずただ見ていただけの私は、持っていた花を握り絞めた。
…すると突然、私の背後からただならぬ気配がした。
感じたことのない悪寒。体が強張り、動けない。私の後ろには何かがいる。
先ほどまでざわついてた村人たちも、その気配を感じ取ったようで、急に静かになり、ゆっくりと私の背後に目をやった。中には失神して倒れるものもいた。叫びだしたものもいた。
振り向けずにいた私の視界の端で、私の後ろを睨み付ける顔が見えた。
それは、私が探していた彼だった。彼は誰よりも目立っていた。
すると突然後ろの何かから息遣いが聞こえた。何を言っているのかは聞き取れない。
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