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頭から血を流していた女の傷は見る見るうちに癒え、2、3度せき込んだかと思うとうっすらと目を開けた。
「…神楽…?」
「母さん!!!」
女に抱き着いた神楽はわんわんと泣きじゃくった。
「なんてことだ…」
「死んだ者が生き返った…」
村人たちは再びざわつき始めた。
私は鬼仙の方へ向き直り、ぐっと拳を握った。
「鬼仙様!!!この娘を生贄にするかわりに、村の安全を保障してくださりませんでしょうか!!!」
村人の中からの声に鬼仙はただ黙って聞いていた。
「この娘は、さきほど獣飼いの長女と言いましたが、本当は実子ではなく養子でございます。村のはずれの井戸のそばで置き去りになっていたところを引き取られたのです。しかし、この娘が村に住むようになってから、災いがひっきりなしに起こります。丹精込めて作った作物も実らず、天気も晴れません。そしてこの娘の目の色が変わったのを見た村人3人が立て続けに変死しているのです。これはもう、悪魔の子としか思えません。どうか、この命を捧げる代わりに、この村に安泰をもたらしてください!!!!」
その声を筆頭に周りの村人たちの声も次々に沸き起こった。
私はその中を歩き、再び鬼仙のもとへと歩み寄った。
「私は悪くないのです」
村人に聞こえない程度の声でそういうと、鬼仙は優しく笑った。
そして、知っている。我々は生贄など必要としない、と小さくつぶやいた。
「確かにこの子は、周りの人間たちとは目の色が違うようだ。私も初めて見る目の色だ」
私は見つめていた目をそらし、下を向いた。
「愚かなお前たちは、この目がどれほど神秘的で可能性を秘めた目だと、気づけやしないのだ。自分たちと少し違うということだけで、異端と決めつけ、排除する。実に愚かだ」
鬼仙の言葉に村人は黙りこくった。
「紅、お前はこちらの世界へ足を踏み入れる気はないか」
突然のことに返答に困った私は首を傾げた。
「私は、お前が力のある人間だと思っている。でもそれは人間どまりだ。それではもったいないと思っている。どうせなら、こんな世界を捨てて私と共に来ないか。もちろん、断っても構わない。私は何もせずにこの世界を去る」
鬼仙の言葉は、村人に教えられた儀式とは全く違った話だった。
本来ならば、私の命を喰らって、村に平和をもたらすはずなのに。
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