雨のち別れ

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混乱し、口を開けていた私は、彼の声で我に返った。 「行かない!!紅は行かない!!行かせない!!」 そういって村人の間を縫って走ってきたのは、まさしく彼だった。 まっすぐ鬼仙を睨み付けている彼の足は止まらない。 しかし、石台に差し掛かる階段の最上階で何かに弾き飛ばされた。 階段から落ちた彼は何事かと目を丸くした。 「きっと結界だよ」 神楽が彼の後ろに立ち、ぐっと唇をかみしめた。 神楽の伸ばした指は、バチッと音を立てて跳ね返された。 「ここから先にはいけないんだ」 彼と神楽は私と鬼仙を交互に見た。 私は何も出来ずただ二人を見つめた。 「何をしてる!!このガキ!!」 二人を村人たちが押さえつける。抵抗する二人は再び叫んだ。 「代わりに俺が行く!!」 「僕だって!!!」 彼らは必死になってもがき、あがく。 「お前らでは役不足だ。力などない」 鬼仙の放った言葉にグッと言葉を飲み込んだ。 …私は息を吸うと、立ち上がり、目を閉じた。 深呼吸を繰り返し、目を開ける。相変わらず、目が合うのは彼らだけ。 「行くな」 「行かないで」 彼らは悲しい目でこちらを見た。もう抵抗する力も残っていないのか、だらんと腕を垂れている。 「変わらない君が好きだ」 そう彼は言った。私はその言葉を聞いて、やっと答えを出せた。 ーーーならば私は…。 「私も変わらない私が好きよ。いつだって自分の考えを曲げたことはない」 そう告げると、彼らは嬉しそうに頬を緩めた。 ーーーあぁそうだ。答えなんて初めから決まっていた。私は決めていた。 「私はあなたについていきます」 そう鬼仙の方を向いてはっきり告げた私に、鬼仙は力強くうなずき杖を持ち直した。 衝撃を受け、目を丸くしている彼らは本当に愛おしかった。 彼らの目から一筋の涙が流れた気がするが、それはきっとさっき降り始めた雨のせいだろう。 やっぱり私は雨が好きだ。 激しく降り始めた雨音に彼らの声はかき消され、同時に私の意識も光と共に消えていった。 ーーー変わらぬ私が好きだと、彼は言った。 ならば私は変わらないでいよう。姿形が変わっても、彼らへの思いは変わらない。 そう心に誓い、私は鬼仙と共に空を超えた。
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