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二人で並んで座ったタクシーの後部座席では
吉野くんは私の手を握っていた。
私の消極的な手はそれを握り返すことが出来ずに彼の手のひらの中で固まっていたけれど
彼の手のひらから伝わる想いに私は思い切って指を絡めた。
すると、吉野くんはちらりと自分の腕時計を見た。
タクシーが私のアパートに着くと
吉野くんが料金を支払って急くようにタクシーを降りた。
「今日は私が払うって」
「いいよ。また今度で」
「よくないよ。何か年下の子にそんなことさせるなんて…」
「…本気で怒るよ?」
彼はそう言いながら私に冷たい視線を向けた後、私の手を引いてアパートの階段を上り始めた。
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