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「…雪菜は知ってる?俺の名前」
そう言われて一瞬目が泳ぐ。
名簿でも何度か目にしているはず。
だけど、普段誰もが『吉野』って呼んでいるし
すぐにパッと思いつかない。
「…ごめん…。『吉野くん』が定着してて…」
「『哲也』ちゃんと覚えて」
「ちゃんと…」
吉野くんはそのまま私を抱きしめた。
そして耳元で囁く。
「雪菜…名前、呼んで」
耳に流れ込む、まるで懇願するかのような切ない響きに
罪の意識のようなものが小さく生まれる。
けれど、私はそれを振り払って彼の耳元で彼の名前を囁いた。
「…哲也…」
私は…
間違ってなんかない…
それを確かめるように
私はもう一度彼の名前を呼んだ。
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