三・採集

2/7
31人が本棚に入れています
本棚に追加
/291ページ
 ガケメロンは王が戦争を取りやめる唯一の条件だ。だからこそ、王へは絶対にガケメロンを献上しなくてはならない。  だが、ガケメロンはその名の通り高く切り立った崖の途中で生えており、とても取りづらい位置にあるメロンなのだ。その上、ガケメロンをとっていく鳥や、食い散らかす虫なども多く、人の手に渡ることはそうそう無い。弓で取ろうものならば、その実は感情を持ったかのように揺れるのだとか。なので、ガケメロンを見つけることすらままならないのだ。  しかし偶然にも、ガケメロンは早く見つかった。二つも実っている。一つの茎から、二つに分かれているので、遠目から見たら黄緑色のサクランボのように見える。姫は、持参していたはしごを崖に引っ掛け、登り始めた。……が、見るからにして、長さが足りない。ガケメロンまで、三分の一も届いていない。これならば紐を吊るした方が早いのではないか。そうは思ったものの、ここは少し泳がせてみよう。はしごが倒れないようにガッチリと掴み、登って行く姫を見る。姫ははしごの頂上まで登り切ると、辺りをキョロキョロと見渡し、ゆっくりと降りてきた。 「採れないな」 「ですよね」  彼女が、「な」を言う時点で僕は素早く答えた。その速さがツボだったのか、姫は腹を抱えてげらげらと笑った。 「それじゃあ、もう少し大きいのを出すとしよう!」 姫はもう一つ、寝かせていたはしごを取り出した。先程の二倍くらいの長さはある。だったら始めからそっちを使えばいいものを。たたまれていたはしごを伸ばし、姫は脚をかけた。確かにさっきよりは長いが、これもこれでガケメロンには程遠そうだな。このはしごと、さっきのはしご二つで丁度届くくらいの高さか。これは、また無駄足になりそうだ。と言うか、姫も分かっているだろうに。どうして彼女はあんなにも、無駄なことに対して楽しそうな顔をしているのだろうか。  などと冷静に思いながらも、ひたすら無駄な動きをしている彼女を少し楽しんで見つめている僕もいた。  姫は再度僕の元へと降りてくる。 「採れないな」 「ですよね」  同じ速さ、同じタイミングで答える。姫はげらげらと笑う。先程と全く同じ流れだ。僕がそうさせているのかもしれないが、彼女が、「採れないな」と言った時点で、彼女から笑いを仕掛けているのだ。僕に罪は無い。
/291ページ

最初のコメントを投稿しよう!