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窓枠にでろりともたれかかっていた腕を伸ばし、携帯電話を拾い上げた律は、カメラを起動させ自撮りモードに切り替えた。
平常から眠そうなぼーっとした顔――はさておき、伸ばしっぱなしの前髪をかき分け、画面に額を映すと、紅葉のような奇妙な形の痣が現れた。
「まあ、いつも通りか……」
目立たないように隠してはいるが、この痣とももう長い付き合いになる。
だけど――。
痣ができたのは突然だった。
あれはいつだったっけ?
――わからない。また頭の中でもやが濃くなる。
――ズキン。波が来たのと同時に微かな声が響いた。
『――けて……!』
「……なんか聞こえた?」
耳を澄ませると今度はハッキリ聞こえた。
『――誰か! 助けて……っ!』
「助けて?」
ギクリとする。本能で肉声ではないことを悟った。
まさかユーレイやお化けの類なのでは。
「え~と、聞かなかったことにしよ。……ウン」
立ち上げっ放しのカメラに変なものが写っては堪らないと、素早い手つきで電源を落とす。
(今まで霊感なんかなかったと思うんだけど……なんで急に?)
この町にやって来てからおかしなことばかりだ。
「……いやー、気のせい気のせい~」
何事もなかったかのようにその日はやり過ごしたが……。
「――気のせいじゃ……ナイ、かも?」
翌朝、また『助けて!』という大きな声が鼓膜を突き破って脳内を直撃し、ビックリして飛び起きた。
『助けて……誰か……!』
無視を決め込もうと布団に潜って耳を塞いでみても、10分置きにやられては気になって仕方がない。
「もー……黙ってよ~!」
観念して眠い眼を擦りながら掛け布団を跳ねのけた。
居間へ向かうとコーヒーの香ばしい香りが漂ってくる。
座布団の上でマグカップ片手に新聞紙を読んでいた父親が目を丸めた。
「こんな時間に律が起きてくるなんて珍しいなあ」
「うー……うるさくて寝らんなかった」
「うるさい? なにかあったか?」
「? 父さんは聞こえないの?」
「なにがだ?」
誉のきょとんとした表情を見て『声』は自分にしか聞こえていないのだと知り、律は溜息をついた。
――どうしてボクなんだ。
そう思いながらも『声』の正体をつきとめることにした律は、縁側から庭を見渡した。
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