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素朴な疑問
昼飯を食いに、近所のファミレスに行った。
すぐに席に案内され、注文をすまして料理を待つ。その時、隣の家族連れの会話が聞こえた。
といっても、聞こえてくるのは四、五歳くらいの男の子の声だけだ。やかましいくらい元気な声で、父親と母親に色んな質問を投げかけている。
「ねぇパパ、どうしてアレはこんな色なの?」
「ママ。これはどうしてこんな形をしているの?」
素朴すぎるがゆえに、なかなか答え肉Ⅶ子供の疑問。両親は何やら答えているらしいが、そちらはたいした声量ではないので、ひたすら男の子の声だけが店に響く。
「どうしてあっちのテーブルのお客さんは首がないの? あれでどうやってごはんを食べるの?」
「今通ったお姉さん、どうし体の向こうが透けて見えるの?」
「どうして?」
「どうして?」
「どうして?」
途中で店員さんがテーブルに駆け寄り、ご両親も、ぺこぺこと頭を下げて、まだ食事途中のようなのに慌てて店を出て行った。
その間も、男の子の疑問の声は響く。
「ねぇ、どうして?」
首のない客がいるテーブル。体の透けている女性。その他にもあれこれ色々このファミレスには『いる』らしい。
いっそ、新手の嫌がらせだと思う方が心情的にはマシかもしれない。でも、あの両親の様子からして、多分あの子供の質問は総て本気の疑問だ。
どうしてあの子にはそんなモノが見えるの?
どうしてこの店には、そんなにたくさんそんなモノがいるの?
この疑問に答えは見つからないだろうから、佐々食事を済ませて店を出よう。そしてもう、ここに近づくことはない。
素朴な疑問…完
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