魔族

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「人間一人を始末することなどは、どうでもよい問題だ。だが、キルシェ様を我々の世界にお連れすることの方が問題らしい」 「……と、言いますと?」 「キルシェ様はリコリス様付の騎士で、この国に対する忠誠心は人一倍強く、正義感も強い方らしい。魔力を使い、意志とは関係なくお連れすることもできる。しかし、ザカート様は、それをよしとしない」 「ならば、どうするのですか?」 エラルノは小さく息を吐き、フッと鼻で笑う。 「アルベロ王は案を出してきた。一度、リコリス様を我々が攫い、キルシェ様が率いる救出隊がそれを追う。その際に同行させる傭兵の男を始末する。つまり、救出の際の不慮の事故でキルシェ様と傭兵の男がこちらに帰ることができなくなるようにしたいらしい。まあ、狂言誘拐のようなものだな」 「それでは完全に我々が悪者になってしまうではないですか。それに、キルシェ様も憎しみを持たれたまま、向かわれてしまうのでは……」 再び湧き上がる不満。それをエラルノが鎮める。 「私もそう言ったのだが……。ザカート様はそれで良いと仰られた。ザカート様には何かお考えがあるのかもしれん。我々はアルベロ王の命のままに、救出隊に同行し任を遂行すればよいだけだ」
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