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フィーネたち魔俗出身の魔導団員は、城内では普段からフードを深く被り顔を隠して生活している。これは、人間とは肉体的な老い方の違いを見せないための処置だ。
だから、同じ城に勤めていて、すれ違うことなどがあったとしても、その気になる存在である男性がフィーネの姿を知ることはなかった。
その男性は時々この中庭にやって来ては、今フィーネが座っている場所の向かいにある長椅子に座り休んでいた。フィーネは、よくここで休憩がてら読書をしたりしていたので、度々彼の姿を離れた場所から眺めることがあった。
甲冑を身に纏った彼は、木陰で寛ぎ、中庭に吹く心地よい風にあたり、何をするわけでもなく、ただそこに座っているだけだった。しかも、とても短い時間で、少し目をを離した間にいなくなっているということも多々あった。
フィーネが彼に抱いたのは「何をしに、ここに来ているのだろう?」と、いう単純な疑問だった。気にはなったが、だからといって、その疑問を彼に尋ねようとしたことは一度もなかった。
人間の世界に興味を失いかけていたフィーネにとっては、久し振りに抱いた関心事だったが、そこから先に進めていこうという気分にはならなかった。
ミディの言う通り、汚い人間よりも住み慣れた世界を恋しがっているゆえかもしれない。しかし、ここに足を運ぶと、彼が居ないか捜してしまう自分もいるのだ。
「……一度くらい、声をかけてみればよかったかな……」
何となくだが、今回の任務であちらに戻ってしまえば、もう人間の世界には戻って来ないかもしれないと感じているフィーネ。
そんな彼女の口からは、僅かな後悔の気持ちがこぼれ落ちていた。
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