魔族

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そして、現魔王ザカートは人間の世界にある小さな国の王と契約を結んだ。 国の名はガルデニア―― とても小さな国で、国としての力も弱い。そして、今まさに隣国との戦争で国そのものが消滅の危機にあった。 ガルデニアの若き王は魔王ザカートに対し、この戦況を覆すほどの戦力を欲した。 ザカートはそれを契約とし、数十名の魔族をガルデニアの兵として送ることを了承した。 そして、その対価として、まだ産まれていない王の娘を求め、兵として送る魔族たちの人間界への移住をも求めた。 今回の契約で、ガルデニアの兵として人間界に移住することになった者の中に、フィーネの名があった。 フィーネはセイレーン種の若い娘で、何代か前に一度だけ人間の血を取り入れた混血の血筋だった。 戦争という、書物でしか知らない争いの場に赴かなくてはいけない恐怖はあった。 しかし、それでも初めての世界に興奮は隠せなかった。 知りたいことはたくさんある。 人間の生活に、人間の見せる感情。そして、人間の世界の歴史。色々なことを知りたかった。 はるか昔に混じり、自分の中にも流れる人間という存在。 それがどんなものなのか、フィーネは知りたかったのだ。 フィーネは人間という存在に幻想を抱いていた。 そして、その幻想が打ち砕かれるのは、一瞬の出来事だった。
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