魔族

5/30
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/106ページ
赴いた戦争の地で、フィーネは愕然と目に映る光景を眺めていた。 立ち込める土煙と血の臭い。狂気に近い叫び声。 剣を掲げ、傷付けあう人間たち。 そして、苦しみ、血と涙を流しながら目の前で死んでいく人間の姿。 人間が人間を殺す。同種同士で殺しあう。 それがフィーネには酷く醜い姿に映り、人間の世界におぞましさを感じさせた。 魔族が戦争に加入し程なくして、戦争はガルデニアの勝利という形で終了した。 フィーネの心に、人間の醜い姿を植え付けて……。  ◇ ◇ ◇ 「フィーネ。最近どう? めぼしい男でも、見つかった?」 戦争の傷跡が残るガルデニアの街を歩いていたフィーネに声をかけてきたのは、共にこの地に来ていた別種の女性だった。 「……いいえ」 申し訳なさそうに、フィーネは首を横に振る。 戦争を終わらせた魔族たちは、この地に留まり本来の目的を遂行するために動き出していた。 もちろん、フィーネもその一人だ。しかし、彼女の表情は俯きぎみで明るさがみられない。
/106ページ

最初のコメントを投稿しよう!