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第3章 輪舞は終わらない
「いがみあうのもこれまでだと思うと、惜しいわよね。」
グウィネアは優雅にお茶をすすった。
「もう太刀打ちはかなわないと思うと、悔しいわ。」
イゾルデはなおお茶に手をつけようとしなかった。
「お茶、変えさせたら?冷め切ってるじゃないの。」
「いい。お茶に誘ったなんてただの口実だから。私達にふさわしくない、場違いなね。」
くつくつとグウィネアは笑った。
「こんなこと聖導院に知られたらなんとするのよ。聖導女と見習いが仲良くお茶してましたなんて。」
「どうでもいい。もうすぐ用済みだから。」
「あ、ら。でもあなた優秀だから神補官として聖導院に残れるんじゃなかったっけ?」
「それはライラがつくことになった。」
「ライラ、ね。あの子の技はなかなかの脅威だったわ。私達の間じゃ死神の鎌手だなんてあだなされてたのよ。」
「そうね。たのもしい戦力だった。でももう鎌を振るえない。あの子も用済み。」
「用済み用済みって。ずいぶん捨て鉢よねえ。」
「あなたはこれからが本領なんでしょうけどね。」
「そうねえ。」
イゾルデは口をかみしめた。
悔しい口惜しいくやしいクヤシイ。
「ね。せっかく普通に戻れるのにどうしてこんなわるあがきをするのかしら?」
「普通になんてなろうとしないあなたにいわれたくない。」
「ふ、ふ。もし普通になろうとしたらどうやって生きられるかしら?元見習いでしたなんて公言しながら生きられるかしら?」
「・・・。見習いを選んだあなたが間違っていた。」
「後悔なんかまったくしていないけど。そう、聖導女と見習いに差は存在しないことは知っているわけね。」
「さすがにわかるわ。あるのは善なるものに従うか、悪に魅せられるか。どちらかよ。」
「ですって。ウェンズデイ。」
グウィネアは隣のテーブルに座っている、黒髪の三つ編みの少女に呼びかけた。
ウェンズデイの座っているテーブルにお茶はなく、小さな砂時計が置いてあった。
砂が落ち切るたびに砂時計を逆さにしている。
彼女がこのティールームを魔法でのっとり、街の一角から切り取って見えざる空間に変えていた。
「悪に魅せられた。フフッ、ウフフ。言うじゃない。でもそれは正解じゃないわ。」
「悪に魅せられたのではなく、悪意に立ち向かうため。」
ぽつりとグウィネアの言葉をウェンズデイは引き継いだ。
「悪意?なんのこと?」
「言葉通りよ。」
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