序章 青春の終わりと苦いお茶

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私は目的を果たさず、終わりを迎えようとしているのね。 そうひとりごちて目の前のティーカップを見る。 何の為に今日まで戦ってきたの? ちゃんと聞かされていたことじゃないの。 ちゃんとわかっていた、つもりじゃないの。 わかっていたのに、今になってわかりたくないなんて。 何の為に? 魔なる彼女達を駆逐する為に。 魔女の呪いを祓う為に。 結局五分五分の中途半端な結果だった。 私達は強い。 そして彼女達だって決して弱くはなかった。 勝負がつくことはまれだった。 倒せなかったことが殆どで、堂々めぐりの戦いだった。 彼女達は強くなる一方だ。 なのに、私は日々弱くなっている。 あのみなぎる力は感じられない。 それが卒業の徴だ。 いえ、退職。廃業。 卒業なんて聞こえのいいなぐさめだ。 用済み。 そうとしか感じられない。 選ばれし用済み。 これが私の最後? お茶はひとくちも手をつけられず、冷めていた。 彼女は来るのかしら? 約束をあてにできるような人達ではないし、ましてこんな呼び出しに応じるものか、はなはだあてにできない。 謎を解くのよ。 この疑問を持ったのは私だけではあるまい。 夢中だった。 どうにかなると思っていた。 何も目指していなかったことに気がつかないくらい。 お遊びじゃない。 今さら普通になんか戻れない。 リアナは故郷に戻って花売りの仕事を継ぐと話していた。 リアナはいつも怯えていた。 聖導女に選ばれたことをありがたく思っていなかった。 戦いも好まなかった。 類まれなる氷雪の操り手なのに、花売り? 笑止。 お笑いね。 触れたものを即座に粉砕してしまう彼女の手はこれからしなやかな花々を愛でるのね。 私は? ああ、考えたくない。 駿馬のイゾルデは故郷に帰ればトリスタン公爵婦人、イゾルデになる。 いいじゃない! みなそう言うけど…。 私は戦いに明け暮れる日々を厭わないけど、何ごともなかったかのような日々には帰れない! 力は衰えても諦めない! こんな終わりのために聖導女になったわけではない! (うふ。そういうわけ?) 「約束を破られるのを承知って様子ね。」 目の前に妖艶な少女が立っている。 「ええ。」 「来てくれて嬉しいのご挨拶も期待できない私達だけど、こんな面白いお呼び出しには歓迎よ。」 「面白い。そうでしょうね。」 「ふふっ。お話を楽しみましょうか。何故聖導女は力を失う時を免れず、私達は魔女として見習いから変形するか。」
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