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怒涛の如くグウェンダリンは挨拶もなしに喋った。
「わたしはグウェンダリン。よろしく。」
挨拶と会話が逆転した。
「えーと。はい。よろしく。」
「フラウ。あなたと六年間ともにするわけね。ここに来たってことは何らかの能力があるわけでしょ?」
「ええ。まあ。」
「自信ない様子じゃないの。」
「能力といっても、足が速いくらいですから。地元では兎足とか鹿足とか言われてましたけど。」
「人より足が速いだけ?」
「そうですね。」
「逃げるしか能のなさそうな技ね。」
遠慮というものがない物言いをするグウェンダリンだった。
そしてフラウはまさしくそのことについて悩んでいた。
聖導女に選ばれるとは思いもしなかった。
人よりちょっと変わっているだけ。
そんなものだと考えていた。
「見習い相手でも苦戦しそう。」
「・・・。」
「でも探索には向いていそうね。それも大事なことだから。」
「グウェンダリンさん。見習いのことは知っていますよ。もちろん。でも戦うことが前提なんですか?ここは軍隊ですか?私達は兵隊なんですか?」
「魔女のために街が一つ消えてもそう言えて?ドラスの事件を忘れたの?」
アルカナスの隣国にあたるディウ公国にあるドラスという小都市が緋色なる夢見姫と呼ばれる魔女によって殲滅された。
一年前に起きた事件だ。
「悲劇そのものよ。なすすべもなく人々は見ているしかない。理不尽きわまりないわ。にしてもグウェンダリンと呼びなさいよ。ため口でいいから。何の遠慮があるっていうわけ。」
有無を言わせない語調だった。
「う、じゃ、じゃあグウェンダリン。でもね。魔女と戦うほど私は強いとは思えないよ。」
「そうね。否定はしないわ。けれども魔女と出会ったら戦うしかないわね。」
「さっき棘の薔薇から逃げきったって聞いたけど。そのときはどうしたの?」
「逃げたのよ。それだけ。こわかったわね。」
「何かで撃退したのではなくて?」
「隠れて姿をくらましてよけて避けて逃げて、それで向こうが諦めてくれたのよ。」
「そう、なんだ。」
「運がよかった。それがそのときの感想よ。戦うしかないなんていったけど逃げに逃げるしかないのかもね。圧倒的な恐怖が魔女だと思い知ったわよ。」
「それでも、戦うんですか?」
「戦うんだわね。一人で立ち向かうわけじゃないもの。ここで戦いを学ぶのでしょう。私は素人戦だったから。」
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