第1章

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 そのうち、ヒカルがおばあさんの指輪の事を忘れてしまった頃、王様から授賞式の招待状がヒカルの家に届いた。いったいなんの授賞式かというと工場の親方が国の王様から表彰されると言う。 「隣国の被災地に貴重なダイヤモンドを我が国から贈る事になった。そのダイヤモンドを提供すると言う、崇高にして清らかなる精神を見せてくれた事によって、我が国の国民の代表としてあなたが働く工場の親方を表彰するので、ダイヤモンドの元持ち主のお孫さんとしておいで下さい」 ヒカルはいったい何の事かさっぱりわからなかったので、表彰の授賞式には行かなかった。  ある日、ヒカルは街に出てふと立ち寄った店のショーウインドウでダイヤモンドの指輪を見つけた。それは非常に美しく輝き、その輝きで、周りにある様々なサファイアやルビーなど他の宝石や真珠の粒やガラスのビーズ達までが輝きを増したようだった。その一瞬一瞬の輝きを見、本物の持つあまりの美しさに、その日はどうやって帰途に着いたかわからかった。  それから、ヒカルは来る日も来る日も、季節が夏から秋に変わるまで、仕事帰りに街に寄っていた。気がつくとショーウインドウの前に居て、ダイヤモンドの輝きを見つめていた。イチョウ並木のある通りの街灯が明かりを灯す時間までがヒカルの自由になる時間だった。家には年老いた母親がいたからだ。  ヒカルは親方の元を離れなくてはとやっと気がついた。考えに考えて親方が紹介してくれた個人の別の職人さんの下について、宝石加工を習う事にした。宝石の磨き方の初歩的な事から親切に教えて下さり、目から鱗が落ちるようだった。ヒカルに「パターンを覚えて反復練習をした後は、デザインは好きなように作っていいんだよ」と言ってくれ、優しく親切な職人さんだった。気さくな職人さんだった。  しばらくして、売るものを作らなければ上手くならないよと言われた。じゃあどこで作るかという話になり、職人さんの修行をした街の有名な宝石工場に一緒に宝石を共同で作ってみる事になった。
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