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「キャレンさんが日課にされていた港への散歩、そこで二人はすれ違いそうになって…」
「母が父に気づいた…」
「二人は、まるで五十年もの年月がなかったかのように、『おかえりなさい、あなた』『ただ今、キャレン』と抱きしめ合った…」
テッドは泣き笑いのような顔を見せた。
「僕も君と長く夫婦をやってるけど、そんなことってあり得るかい? 五十一年も離れていたんだよ」
「テッド、私が一流のモダンダンサーを目指していたとき、あなたが私に尽くしてくれた日々は、私の一生の宝物よ。あなたが私の前からいなくなっても、私は見つけるまであなたを探し続けるわ。一生かかっても。そして見つけたら、きっとキャレンさんと同じことを言うと思うの。『おかえりなさい、あなた』って」
「アニタ、君のために働くことは苦にならなかった。君が輝くのを応援できるんだからね」
テッドは愛情をこめてアニタの額にそっとキスした。
「私、今、お二人が最高にお幸せなのがわかるわ!」
「ああ、母には脱帽だ。こんな愛し方もあるんだって、母の人生そのものを賭けて教えられた」
「ええ、本当に素晴らしい二人だけの愛の物語…。ダンスで言うなら『ラスト・ダンス』かしら? キャレンさんはダンスの相手をラストの曲まで待ち続け、エイダンさんは間際で間に合ったんだわ…」
やっと現れたエイダンの腕をキャレンはしっかり掴んでいた。キャレンの左手の薬指にはルビーの赤い輝きがあった。キャレンの手はくすみ、節くれだって荒れていたが、エイダンの目にはとても美しく映っていた。
「本当に今でも信じられない…まだ俺のことを待ってくれていたなんて…年老いた俺をすぐにわかったなんて…」
深く皺(しわ)が刻まれたエイダンの顔は涙に濡れていた。キャレンも涙を流していたが、その顔は明るかった。
「私があなたのことを忘れるわけないわ。私には、あなたの分身がいたから。あなたの面影があるテッドがいてくれた…。私はあの子を通して、あなたを見ていたの。生きているなら、きっと会えるって。あなたはきっと戻ってくるって…。その通りになったわ!」
二人の瞳は誰よりも幸せそうに相手を見つめていた。エイダンはキャレンの腰に両手を回し、キャレンはエイダンの肩に手を置いた。これから二人だけのスローダンスを踊るかのように…。
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