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セオドアこと通称テッドは、サンフランシスコで育ったアメリカ人だった。
若い頃は妻と息子の三人でニューヨークに住んでいたこともあった。が、一人息子のダニエルが成人して巣立っていき、テッドの母キャレンが年をとってからは、妻アニタと相談してニューヨークを離れることにした。そしてキャレンが住むサンフランシスコの港町で小さな家を購入し、施設に入ろうとしていた母親を説得して、アニタと三人で暮らし始めた。
その家で五十五歳を迎えたテッドは、海辺を背景に両親と自分が映っている写真をしみじみ眺めていた。
写真はもう色が薄くなっていたが、幼い三歳のテッドと若い両親の様子はまだはっきり見ることができた。
キャレンは淡い金髪、緑の瞳、面長の顔だちだったが、父親のエイダンは黒髪に茶色の瞳で、顎(あご)が角ばり首が太く体格もよかった。いかにも逞しい海の男の感じがした。そして真ん中に映っている小さなテッドの髪も瞳も角ばった顎も、父親によく似ていた。
三人は海辺で誰かにシャッターを押してもらったのだろう、カメラに向かってぎこちなく笑っていた。
「この写真はあなたが三歳のとき?」
二つ年下のアニタが、テッドの肩越しに写真立てを覗(のぞ)き込んだ。彼女はテッドと同じ黒髪に茶色の瞳だったが、ヒスパニックの血が流れている彼女は褐色の肌の持ち主だった。その肌の色は息子にも伝わったが、テッドは二人のエキゾチックな肌の色がとても好きだった。
「うん」テッドはアニタにもよく見えるように、写真立てを彼女のほうに向けた。
「あなたはエイダンさん似ね。体つきは今でもひょろっとして似ていないけど」アニタはからかうように言った。アニタは親しみを込めて、テッドの両親のことは名前で呼んでいる。
「それにあなたの方が表情が豊かよね? 口数も多いし。外見が似た親子でも、全部が似るわけじゃないってことね。この写真を撮ったときは、四歳で父親が行方不明になるとは夢にも思わなかったでしょうね」
テッドは頷いた。
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