1.テッドの両親

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「キャレンさんは、本当にエイダンさんが帰って来られると固く信じてらっしゃったのね。何て一途で強い愛情なのかしら!」 「君はそう言うけどね、母から指輪を渡されたときは、僕は呆れ果てていたんだ」テッドは苦笑しながら、感動に包まれているアニタをちらりと見た。 「まあ、自分の母親なのに何て失礼な!」アニタは軽くテッドの腕をつねった。テッドは肩をすくめた。 「正直、僕は二度と父に会うことはないと思っていたんだ。行方不明になった当時は、何があったのか誰も知らないから、いろんな憶測が母の耳に入ってきてた。父はどこかの港で好きな女ができて駆け落ちしたんだとか、波が荒い日にうっかり貨物船から落ちてしまったのではないかとか、いろいろね。でも母は『警察から遺体確認の連絡はないし、彼は生きてるなら、きっと私の元に戻ってくるはず…戻ってこないのは、何かそうできない、私達には予測もつかない理由があるからよ』って、僕が子どものときは何度か言ってた。母は自分に言い聞かせてるみたいだったなあ。僕が大人になってからは言わなくなったけどね。言わなくなったから、母もとうとう父のことは諦めたんだと思ってたんだよ。指輪を渡されるまではね。僕のほうはとっくに父のことは忘れてて、母が今度はもっと良い人と知り合って再婚してくれたらって、ずっと前から願ってたんだ。母から指輪を託されて、その見込みが無いってことがよくわかったから、がっかりさ」 「まあテッドったら、言いたい放題ね。エイダンさんが赤いルビーの指輪を贈ったのは、キャレンさんの秘めた情熱を見抜いていたからでしょう? 一人の男性を信じてずっと待つなんて、正に情熱的! そう思わなかったの?」アニタは夫をじろりと見た。
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